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3つの子供盆おどり唄

現在の盆踊り会場で使用されている「子供盆おどり唄」の音源には,次の3つの種類が存在している。

1.持田ヨシ子盤

昭和27年5月発売当初の音源である。唄は,1番,2番が持田ヨシ子のソロ,「シャンコシャンコシャンコ シャシャンがシャン,手びょうしそろえて シャシャンがシャン」の反復詞及び3番がキング児童合唱団の合唱,演奏はキングオーケストラである。2番と3番の間に間奏が1コーラス入って,実質4コーラスの曲となっており,1曲の演奏時間は2分26秒である。

この盤はSP盤(モノラル録音の旧規格のレコード)として版を重ねたあと,EP盤(シングル盤のレコード)としても数度にわたり再発売されている。最後にEP盤が発売されたのは昭和58年である。その後,次のタンポポ児童合唱盤の発売を挟んで,平成14年7月にカセットテープで復刻発売されている。

平成14年発売のカセットテープは,A面,B面とも5回連続演奏で,各面の収録時間は12分15秒である。SP盤からの再録のため,若干のスクラッチノイズが入っている。連続演奏だが,1曲ごとに前奏,後奏が入るため,踊りは不連続になる。盆踊り会場によっては,踊りが途切れないようエンドレスに編集して使用しているところもある。

道内のレコード店では,お盆近くになると民謡のコーナーにこのカセットテープが並ぶ。なお,京都の市原栄光堂から発売されているテープに収録されている「子供盆おどり」は,この持田ヨシ子盤である。

2.タンポポ児童合唱団盤

平成7年6月にカセットーテープで発売された音源で,歌詞が5コーラス分追加されている。唄は1番・5番が江籠沙織のソロ,2番・6番が石川健二のソロ,3番・7番が両名のデュエット,4番・8番及び反復詞の部分がタンポポ児童合唱団の合唱である。

この盤では,曲名の表記が「子供盆踊り歌」となり,かず翼により4番から8番の歌詞が追加された。1番から3番までの歌詞も原曲と微妙な違いがある。原曲にあった1コーラス分の間奏はなくなり,1曲8コーラスである。1曲の演奏時間は原曲の約2倍の約4分40秒になった。

カセットテープはA面,B面とも5回連続演奏で,片面当たりの収録時間は23分13秒。各面の最初と最後に前奏と後奏が入る。したがって1時間程度の盆踊りでは,途中で2度曲が途切れることになるが,あとはエンドレスで踊れるようになった。

なお,権利者に無断で歌詞の補作,編曲が行われたとして,原曲の作詞者の遺族及び作曲者らがキングレコードに申し入れをし,本バージョンは平成14年夏をもって廃盤となった。カセットテープも販売店から回収された模様で,現在では入手困難となっている。

3.野幌盤

制作された経緯は不詳であるが,恐らく「子供盆おどり唄」の歌碑が野幌に建立されたのを機に,子供盆踊りを江別の一大イベントに育てようという機運が盛り上がる中で,平成17年頃に制作されたものと思われる。平成19年の段階で使用を確認できたのは,江別市野幌の旭公園で開催された盆踊り大会のみである。同市江別地区の盆踊りでは持田ヨシ子盤が使用されており,普及はまだ市内の一部にとどまっていると思われる。

歌詞と演奏は原曲を忠実になぞっており,原曲と同じく,曲の変わり目で踊りが不連続になる。原曲ではアコーディオンやピアノが主旋律を取っているが,本盤は和楽器のみで演奏されている。

持田ヨシ子盤 タンポポ児童合唱盤

各盤の特徴

3つの盤はそれぞれ特徴があって,三者三様に素晴らしいものである。

持田ヨシ子盤はモノラル録音でノイズも目立つが,SP盤の音源が現在これほど広範囲に使用されている例は全国的に見てもないわけで,それだけ不滅の魅力を持った作品だと言える。素朴な演奏と持田ヨシ子の清らかな歌声は何度聴いても飽きることがない。ただ,若干歌詞が不明瞭な部分があり,例えば「そよろそよ風」は「とよろそよかぜ」に,「シャンコ」は「チャンコ」に聞こえる。

タンポポ児童合唱団盤はステレオ録音になり,楽曲としての魅力が一段と高まった。1曲で8コーラスというのも異例で,特に追加された4番以降の歌詞は北海道らしさもあって素晴らしい。3つの盤の中では最高傑作と言える作品である。ただ残念なのは,この音源の魅力を十分に引き出し得る再生装置を備えた盆踊り会場がほとんどないことである。音域が広く非常にクリアに録音されているだけに,余裕のないスピーカーで再生すると音が濁って聴き難く,それであればSP音源の持田ヨシ子盤のほうがかえって聴き心地がよいというケースが実際には多い。

野幌盤は三味線や鉦が入った和楽器主体の演奏が秀逸である。ただ,前二者と違って唄い方にややクセがあるので,好き嫌いがあるかもしれない。1曲終わるごとに踊りが不連続になるのはあまり好ましくないと思われるので,せっかく新たに録音するなら,エンドレス演奏に改良してほしかったところである。

各盤の使用実態

平成17年から平成19年にかけて,道内の子供盆踊りで使用されている曲を実際に現地で聴いて確認した結果を表1に示す。子供盆踊りで「子供盆おどり唄」を使用しない事例は上川町ふる里まつりの1例のみだった。「子供盆おどり唄」を使用する盆踊りのうち,約65%が持田ヨシ子盤を使用しているが,タンポポ児童合唱団盤を使用している盆踊りも3割以上存在する。両盤の選択について,地域的な特徴は見られず,同一市町内においても同じ盤が使用されているとは限らない。

表1 子供盆踊りで使用されている曲
箇所数 盆踊り会場(市町村名のみのものは当該市町村の筆頭盆踊りを指す)
子供盆おどり唄
持田ヨシ子盤
17 上富良野大雄寺(平成17年確認),芦別,富良野本通,富良野緑町(以上平成18年確認),札幌大通,札幌ひばりが丘,札幌第二桜台,札幌大谷地団地,江別市民,西芦別,歌志内神威,雨竜暑寒,小樽新光南町,岩内,旭川米原,富良野麓郷,鹿追(以上平成19年確認)
子供盆踊り歌
タンポポ児童合唱団盤
8 三笠(平成17年確認),札幌白石ふれあい,北広島達磨寺,岩見沢栗沢,富良野山部(以上平成18年確認),赤平茂尻,歌志内文殊第三,旭川博物館通(以上平成19年確認)
子供盆おどり唄
野幌盤
1 江別野幌(平成19年確認)
北海盆唄 1 上川ふる里(平成19年確認)
たべものソーランぶし (1) 札幌大通(子供盆おどり唄と交互に使用)(平成19年確認)

タンポポ児童合唱団盤の廃盤について

先に書いたように,平成12年から14年にかけて,「子供盆おどり唄」のルーツを探る調査が行われた。その調査の過程で,平成7年6月発売のテープにおいて,権利者に無断で歌詞を追加,編曲されていたことが明らかとなった。調査者から情報を得た作詞者の遺族らはレコード会社に申し入れを行い,レコード会社は平成14年春,テープの在庫破棄と廃盤を決定,同年7月3日,原曲を復刻発売した。

問題とされたタンポポ児童合唱団盤の音源について,報告書などでは「改悪」であったとの論調をとっているが,これには調査者自身の誤解もあるように思うのでここに指摘しておきたい。

報告書などではまず,馬そりの鈴の音を表現しているとされる「シャンコシャンコ」の囃子詞が「チャンコチャンコ」に変えられたのを問題視している。「チャンコ」は隈隠語であり,若い人達が「チャンコチャンコ」で覚えているのは,平成7年版のテープに原因があるとしているのだ。

しかしこれは誤りである。持田ヨシ子盤はたしかに歌詞カードでは「シャンコシャンコ」となっているが,実際に再生された音ではどうしても「チャンコチャンコ」に聞こえる。テープを聴く限りは,持田ヨシ子盤もタンポポ児童合唱団盤もともに「チャンコチャンコ」に聞こえるのである。また,平成7年に新盤のテープが発売されたからといって,一斉に新盤が普及したわけではなく,依然として旧盤を使うところも多かったはずだ。

チャンコが隈隠語だというが,いまや大多数の日本人がその意味を知らないだろう。チャンコが卑猥だったら相撲のちゃんこ鍋も卑猥なのかということになる。追加された歌詞も純朴なものであり,どう考えても作詞者が悪意を持ってチャンコに変えたとは思えない。チャンコが隈隠語だなどと難癖をつけるほうがむしろ汚れているのではないか。

レコード会社も「なぜ95年に原曲が変更されたのか,当時の事情を知る担当者が社内にいないので分からない」という状況だったため,権利者側の要求をすべてのむ形で廃盤を決定したようだが,著作権法の手続き上若干の問題があったとしても,協議によって何とか廃盤を避ける方法はなかったのだろうか。演奏,歌唱ともに日本童謡史上最高傑作と言って差し支えのない作品だっただけに,廃盤は残念でならない。