1997年にオープンした新しい白銀荘。露天風呂が充実しており,旅行雑誌の人気温泉ランキングでは常に上位に入っている。
吹上温泉は周辺で最も歴史ある温泉で,古くから十勝岳登山や山スキーの基地として知られていた。温泉の前に十勝岳登山口があり,右へ進めば三段山,左に進めば九条武子歌碑に至る。
九条武子は上富良野町に関わりがあるただ一人といってよい著名な歌人で,函館や釧路の人が石川啄木が来たことをいまだに誇りに思っているように,上富良野の人は九条武子が十勝岳の歌を詠んだことを今も誇りに思っている。
九条武子歌碑は大正泥流の跡地にあり,町内で最も有名で,かつ,最も訪れにくいところに建つ碑である。
アカエゾマツの大木が茂るさわやかな登山道を歩く。
昭和3年10月7日建立の十勝岳爆発記念碑。町内に10箇所ほどある大正15年の十勝岳爆発の記念碑の一つで,かつては記念堂に納められていたというが現在では堂が朽ち果て,石碑だけが残っている。
記念碑を過ぎると道がやや怪しくなってきた。
赤茶けた地肌がむき出しになっている泥流跡地。大正15年の噴火から80年を経て,ようやくハイマツなどの緑に覆われてきた。
泥流地帯を深く切り刻む富良野川源流。この谷を泥流が時速60kmで下り,麓の農民144名の命を奪ったのである。九条武子歌碑に至るには,この谷を越えなければならない。登山ガイドには初心者向きのコースとあったが,かなり険しい道のりである。
岡本三男の碑。
立ち枯れした木が目立つ前十勝山腹。紅葉が始まればきれいに色づきそうだ。
ハイマツの下を身をかがめて進む。
ついに九条武子歌碑に到達。
「たまゆらに けむりおさめてしずかなる 山にかへれば 美るにしたしも」
と歌が刻まれ,昭和4年7月9日に建立されているが,よくもこんなところに石碑を建てたものだ。
歌碑を越えて望岳台を目指す。途中には硫黄に覆われた岩もあった。
標高は1000メートルをわずかに越す程度だが,いかにも高山という景色である。
今度は濃い灰色をした,火山岩の上を歩く。アカエゾマツの林からハイマツ帯,泥流跡地から赤い岩,黒い岩へと景色がめまぐるしく変わる。
望岳台と十勝岳を結ぶコースが合流。白金模範牧場を望む。
ようやく望岳台レストハウスが見えてきた。この登山道が上富良野町と美瑛町の境界になっている。