北海観光節小さな旅行記錦秋日高路

占冠へ

道南バス前19:01発→占冠役場前19:21着 日高町営バス 占冠駅前行き

再び国境を越えて胆振国に入る。こう書くと,必ず「占冠は胆振ではありません。上川支庁です」とご丁寧にメールをくださる方がいるが,国でいえば占冠は胆振なのである。大化改新に起源を発する国郡制に基づき北海道にも明治2年に11か国・86郡が置かれた。国の領域は分水嶺を基準に定められており,現在の14支庁の区域とは一致していない。行政区域としての国・郡は消滅しているが,郡は住所表記の中で慣習的に生きており,国を細分化した郡が生きている以上,国も観念的にはまだ生きているのである。

このバス路線は古くは大正12年に石狩金山から占冠,右左府を経て仁世宇に至る「三国横断バス」が運行された歴史ある路線で,昭和18年に道南バスに継承され,現在では日高町営バスが運行している。もとは双珠別で占冠村営バスに乗り換えが必要だったが,富内線廃止後は増便の上,占冠駅に直接乗り入れるようになった。

このバスも自動両替機はついていたが,停留所の案内はなかった。占冠中央の交差点でブザーを押すと,役場前バス停の少し手前で停まってくれた。

道の駅横の寒暖計。ただいまの気温は4.3℃でかなり冷え込んできている。今年は既にマイナス9.9℃まで下がったらしい。

 

「穂別・札幌方面行けません」。この先15kmで通行止めということは,とりあえずニニウまでは行けるということである。

通る車もなく,静寂に包まれた占冠中央市街。しかしこの静けさが味わえるのもあとわずか。来年度には道東自動車道を利用する車が,占冠市街を通過するようになり,夜中もトラックがひっきりなしに通るようになるはずだ。そうすると,占冠にも大きなコンビニができるだろう。そして,既存の商店は壊滅的な打撃を受ける。

賑わいを見せるのはそれはそれでけっこうだが,それもつかの間のこと,5年後には道東自動車道が全通し,再び占冠を通る車はなくなるのである。

占冠駅前の道路工事作業員宿舎。村内にはこのようなプレファブの宿舎や工事作業所がいくつもあった。過疎化の著しい山村が意外と元気に見えるのは,村内で道東自動車道と赤岩トンネルという大工事が行われているからだろう。昨年9月末の住民基本台帳による人口は1500人あまりだが,同時期に行われた国勢調査では1819人と,2割も多い数字が出ている。道路工事が始まってから道東道が全通する5年後までの約10年間,村は相当な恩恵を受けるはずだ。

しかし,5年後に村はどうなるだろうか。工事関係者は去り,わざわざインターチェンジを降りて占冠を訪れる観光客もめったにないだろう。

静けさを取り戻した占冠は,もう一度原点に立ち返ろうとする。そのとき拠り所になるのは,やはり赤岩青巌峡とニニウの風景だ。しかし赤岩青巌峡はトンネルで景観が壊滅させられ,100億以上の巨費を投じて建設された道路も,供用開始からわずか数年で高速道路が開通して無用の長物となる。占冠の人達が大事に守り育ててきたニニウ自然の国も,ど真ん中を高速道路が通過し,自然遊歩道が潰され,ホタルが乱舞したキャンプ場は高速道路のまぶしい明かりに終夜照らされることになる。

もちらん,占冠はこんなことで消えてしまうような村ではないと思う。占冠の魅力は,道路が一本通ったくらいで潰されてしまうような魅力ではない。村の人も勉強会を開いて将来のことを話し合っていると聞く。

ただ,人々は何も考えずに高速道路をほしがっているが,その建設の裏側で翻弄されている村があるということは知っておく必要があると思うのである。

 

JR石勝線占冠駅に到着。その場にたたずむだけで,すがすがしい気持ちになれる駅である。

待合室には数ヶ月分の村の広報誌が置いてあり,これを読むのが楽しみである。ある月の号では「あなたが大好きな占冠村の風景を教えて」という特集が組まれ,鬼峠トンネル入口のペンケニニウ川橋梁の写真が大きく掲載されていた。占冠村のニニウへの思い入れは並々ならぬものを感じる。

占冠20:23発→南千歳21:11着 特急スーパーとかち12号

きっぷは車掌さんから購入。運賃1410円,自由席特急券1100円。南千歳までにしたのは,一日散歩きっぷを持っているので,特急の乗車区間を少しでも短くしたいからだ。

南千歳21:16発→琴似22:01着 快速エアポート211号

車内は大きな鞄を持った旅行客で混み合っていた。

旅行記終了。読んでいただきありがとうございました。

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