キハ58形Kenjiを使用したリゾート列車。1号は盛岡から釜石へ向けて運転され,いったん宮古へ引き返したのち,3号は宮古から釜石花巻経由で盛岡まで運転される。釜石→宮古の回送区間も営業運転を行うので,五能線の蜃気楼ダイヤに対して「ウェーブダイヤ」と呼ばれている。
本来,三陸は陸前(宮城),陸中(岩手),陸奥(青森)の総称なのであるから,陸中国内しか走らないこの列車はぐるっと陸中トレインと呼ぶべきだろう。
白樺 青空 南風
こぶし咲く あの丘北国の あゝ北国の春
作詞:いではく 作曲:遠藤実 歌:千昌夫「北国の春」より
山あいに農家が点々と続く上米内のあたりは,まさに「北国の春」の風景だった。
指定席は前面展望席の最後列だった。この展望室は劇場のように後ろの列ほど座席の位置が高くなっているし,後ろの席のほうが側面展望も楽しめて良い。運良く左右の座席があいていたので,区界まで右に左に移動しながら車窓を楽しむ。
いちばん前の席には少年たちが座り,うわーきれい,きれいーと叫んでいた。何度もトンネルを通ったり,高い橋を渡ったり,山には桜やこぶしが鮮やかに咲き,こんな深山幽谷になぜと思われるところに水仙に囲まれた茅葺農家がぽつんとあったりする。少年たちにとってはどんな遊園地の乗り物より山田線に乗るほうが楽しいだろう。
区界駅到着。盛岡行き快速リアスと交換する。
国道に出ると正面に早池峰が見えた。標高1914メートルで北上山地の最高峰である。
道の駅区界高原ビーフビレッジ区界。区界峠は標高約750メートル。今日は平年よりも気温が高く,暑くも寒くもなくこの上なくさわやか。極楽浄土に到達したような心地だった。
キムチそば,330円。おいしかった。川井村では韓国との交流から生まれた「友情キムチ」が新しい特産品となっている。
峠越えの苦闘の歴史を秘め,凛とした存在感のある区界駅。しかし青い屋根が青空に映え,まったく暗さを感じさせない。待合室でしばらく休んだが,風通し良く,心地よい時間が過ぎていった。
区界高原のあたりは開けているが,下るにしたがって山が深くなる。山田線はこれまでに4度乗っているが,盛岡から宮古に向かって乗るのは初めてである。この向きに乗るとまたまったく異なる印象を受ける。
陸中川井駅到着。
駅と市街は川井大橋で結ばれている。
橋を渡った正面には「北上山地民俗資料館」という立派な博物館があるのだが,今日は月曜のため休館。しかしそれを差し置いても平日に山田線を訪れたかったのだ。平日だと店も郵便局も営業しているし活気があっていい。
山田線は列車の本数が少ないので,移動にはバスも利用する。
バス停には20分以上前からおばさん達が集まって話していた。古田という崖っぷちのバス停で降りた。
茂市着。バス停付近は小公園になっていて鞭牛和尚の像があった。
茂市駅前の新里村民俗資料館を見学する。
閉伊街道と呼ばれる山田線沿線は,日本のチベットといわれる岩手の中でも秘境中の秘境であり,松尾芭蕉も菅江真澄もイザベラ・バードも石川啄木も宮沢賢治もここは訪れていない。しかしこんなところでも弁慶様は訪れている。
史実として沿線で唯一名を残す人物は牧庵鞭牛和尚(1710〜1782)である。鞭牛は閉伊街道を開削した人で,道路の開削そのものがこの村の歴史であったと言って過言ではないだろう。資料館では鞭牛とこの村出身の作曲家・鳥取春陽について紹介している。
茂市駅
今回茂市駅では列車に乗降しないので入場券を買って見学。ここで下車したことは既に2度ある。周辺の桜はすっかり散っていた。