北海観光節旅行記それでも僕は東北へ行く

旅行記余話

今回の旅行は実はさんざんな出だしだった。

まずは初日の寝坊である。寝坊なんてこの10年で1度か2度しかしたことがない。前日慣れぬ幹事を任された忘年会が終わってほっとしたのがいけなかったのだろうか,目を覚ますと7時30分になっていた。飛行機は7時50分出発の始発便を予約していたので,どう考えても間に合わない。

まずは航空券のキャンセルである。出発前にキャンセルすれば半額払い戻しされるという知識はあったので,ホームページから予約取り消しを試みたが,普段キャンセルなどしたことがないので,あせって探してもなかなかやり方がわからない。ようやくキャンセルのページが見つかったが,キャンセルには予約番号の入力が必要だった。予約番号などもう忘れてしまったのでどうしようと狼狽している間に,出発時刻はどんどん迫ってくる。

どうにもならず,全日空に電話をかけた。しかし帰省ラッシュ初日の朝である。全然電話はつながらない。かなり後になって気づいたのだが,予約番号は航空券に書かれていたのである。この日はやはり頭がどうにかしていたのだろう。結局キャンセルはあきらめた。19900円がまるまるパーである。

くよくよしてもしょうがない。とりあえずこのことは忘れて,今度は旅行をどうするのかという判断をしなければならない。この際,一切合切全部とりやめて静かに年末を過ごすという選択肢もあったが,この年末年始の旅行は,この数日間のためにわたしの一年が存在しているといって過言ではない大事な旅行である。やはり旅行をとりやめるという選択肢は消えた。

再び航空会社のホームページを見ると,幸いAIRDOの便に空席があり,これから支度をしてぎりぎり間に合うところで10時10分発の便を予約した。当初の予定より2時間20分遅れてのスタートである。

空港で航空券を購入。道民割引で乗るにはあらかじめ道民カードを作っておかなければならないというので正規運賃で予約したら,カウンターの人が気を利かせて道民割引にしてくれた。

さて,賑わっている搭乗カウンターの写真を一枚撮って搭乗待合室に入ろうと思って,カメラのスイッチを入れると,今度はカメラが動かない。ついさっき,空港に着いたときまでは何の問題もなく動いていたのである。

別に旅行記を書くために旅行に行くわけではないが,デジカメが壊れては仕事にならない。これはもう,旅行に行くなという神様のお告げかもしれない。しかし,もし航空券を買う前にデジカメが壊れていれば旅行をとりやめたかもしれないが,もう後に引くことができないところまで来てしまっていた。うろたえたまま手荷物検査を受け,搭乗係員にせかされて慌ただしく飛行機に乗り込む。

どこを押してもうんともすんとも言わなくなったデジカメに対して今できることは,かすかな蘇生の可能性を信じて物理的な衝撃を与えるである。スチュワーデスさんに怪しまれないようにしながら,これでもか,これでもか,と思いっきりカメラを叩いたが,ついにカメラが息を吹き返すことはなかった。

そうこうしている間に,東京に着いてからの行程を考えなければならない。客室サービスの飲み物はいつもスープを頼むが,今日はジュースを頼んで一気に飲み干し,大型時刻表をばたばたとめくり返す。こんなに落ち着かない気分で飛行機に乗るのは初めてだ。

今日の予定は東京から熱海まで移動するだけだ。富士急行経由を東海道線経由に変更すれば,簡単に当初の行程に追いつくことができる。しかし,丸ノ内線から富士急ハイランドに至る部分は,旅行記の筋書き上核心となる部分で,この部分を省くと何のための旅行かわからなくなる。また,富士急ハイランドに行くということは何人かの友人に公言しており,どうしても外すことができなかった。結局,浜松町から東高円寺に至る間に一つネタを用意してあったのを省いただけで,あとは当初の経路を貫徹することにした。

カメラはどうするか。とりあえず,新宿駅西口のヨドバシカメラに行き,同じメーカーで同じ電池と同じ記録メディアが使えるカメラを安売りしていたら買おうと思ったが,そんな都合の良いことが起こるはずはなく,使い捨てのカメラを買うことにした。

さんざんな不幸に見舞われた旅立ちだったが,列車の乗り継ぎは奇跡的にうまくいった。新宿出発時点で当初行程より2時間34分遅れだったのが,熱海到着時には31分遅れにまで回復していた。

今日は東京で駅前旅館さんとお会いする約束もしていたが,こんなことで会うこともできず,熱海の旅館に着いてからお詫びの電話を入れた。

ヨドバシカメラでは40枚撮りと39枚撮りの使い捨てカメラを買ってあったが,早くも2日目の小海線でフィルムが尽きてしまった。小諸ほどの町ならコンビニがあってカメラぐらい売っているだろうと思っていたら,全然売っていないのである。

このときようやく携帯電話にカメラの機能があることを思い出した。わたしの携帯電話はカメラ機能を重視していない機種なので,いままでほとんど携帯のカメラを使ったことがなかったのだ。しかし,思い立ってカメラのボタンを操作してみると,最大640×480ピクセルで写すことができた。

結局,軽井沢でもカメラを買うことができず,草津まで携帯電話でしのいだ。携帯電話のカメラも実際何枚撮影できるのかわからず,メモリーオーバーで最初に撮った画像が消えても困るので,最低限の枚数しか写すことができない。実際はメモリーの容量を確認するボタンがあって,容易に残枚数を確認することができたのだが,そのボタンに気がついたのは旅行最終日になってからのことだった。

そんなことがありながらも,何とか旅行記は形になったと思っている。使い捨てカメラは5年ほど離れている間にずいぶん機能が進歩しており,従来はまず不可能だった夜景の写真もある程度写すことができるようになっていた。

フィルムから直接電子データ化してCDに焼いてくれるフジカラーCDというシステムもできていて,これだとL判プリントからスキャナで読み取るよりも,ずっと解像度が高い画像データになる。デジカメだと絶対に白とびすると思われる部分も,フィルムはきちんと捉えており,使い捨ていえどもさすがは銀塩カメラだと思った。

結局,携帯電話では130枚ほど撮影した。これをメールでパソコンに送ると莫大な通信費がかかるということを知り愕然としたが,ヨドバシカメラで教えてもらった携快電話というソフト付きのコードで直接パソコンにデータを転送することができた。

家に帰ると,全日空から航空券の払い戻しのメールが届いていた。キャンセル手続きをしなかったのですっかりあきらめていたが,JTBに行くと約半額の9580円が戻ってきた。

旅行記終了。本年が幸多き年になりますよう,お祈り申し上げます。

北海観光節