6時半過ぎ,ホテルをチェックアウトした。いつものごとく,そっけなく出てしまうところだったが,ふと元旦であったことに気がつき,お世話になりましたと頭を下げた。
空は明るく,間違いなく初日の出を見ることができそうだ。
新宮駅。
年末年始にかけての臨時列車は,毎年ほとんど変わり映えがしないが,今年目新しかったのは,電車3段寝台のあけぼの81号,82号と,紀勢本線の初日の出列車だった。
今年は紀勢本線の紀伊勝浦〜新宮間が開通してから100年になる。それを記念して,新宮始発の下り普通列車が初日の出号として運転されることになったのである。
6時50分,列車が入線してきた。JRの人たちは,どれだけお客さんが来るかと心配だったようだが,地元の人を中心に結構な人出だった。ただ意外にも,遠方からわざわざ訪れた鉄道ファンはいないように見えた。
6時58分発車。新宮駅は海岸線から約1km内陸に入ったところにあり,線路はまず一路海を目指す。
7時ちょうど,海が見えると同時に日の出。見事なタイミングだった。車内からはパン,パンとかしわ手が聞こえてきた。
海岸には初日の出詣での人たちが大勢いた。
新しい年の日の出に,喜びに沸く車内。定期列車なので通勤客も何人かいたが,今日ばかりは非日常的な幸福感を味わっているようだ。
「寒いですが,窓を開けたほうがよく見えますよ」というJRの人に促されて窓を開けてみる。
列車は,止まるか止まるないかぎりぎりの速度で王子ヶ浜を行く。
今年は良い年になりますように。
途中の駅から乗ってきた通勤客は,いかにも不景気そうで,新宮から乗って初日の出を見た通勤客とは対照的だった。
那智駅で下車。吹きさらしの無人駅だったが,熊野那智大社の最寄駅として風格を感じさせる構えだった。
列車に乗っていた通勤の人たちは,那智山のお菓子屋さんの工員だったようで,送迎バスで会社へ向かっていった。
駅前では,元旦の朝から自動販売機の飲み物の補充をしている人がいた。そこに,顔見知りと思われる女性が,「おめでとうございます」と言ってやってきた。那智山のお土産屋の店員さんらしく,今日はお正月なので,みんなでおしゃべりしながら行こうと思ってバスに乗るという。
大門坂でバスを下車した。ここで車道と別れて,熊野古道でもある大門坂を上るのが,本来の参拝路である。
俗界と霊界の境目とされている振ヶ瀬橋。
樹齢800年とも言われる夫婦杉。このあたりからいよいよ神聖な雰囲気となる。
九十九王子の最後,
熊野三山巡りは,まず本宮に詣で,それから船で熊野川を下って熊野速玉大社を参拝し,最後に那智山に向かうのが,熊野詣でが全盛を極めた中世の一般的なルートだった。今回の旅行はルートこそ異なるものの,順番としては合っている。
車道はすぐ近くを,激しい屈曲を描いて上っている。
荘厳な杉並木の中をゆっくりと上っていく。こんな道が650mほど続く。恐らく99%の参拝客がこの道を通らずに車で那智山に直行するのは残念なことだ。石畳はいつごろのものかわからないが,とても立派なものだ。
石段を抜けた。昔ここに大門があったという。ここから神社に至るまで,わずかの間ではあるが,コンクリートの廃墟のような屋内駐車場の脇を通らなければならず,それまでの荘厳な雰囲気が台無しだった。ここは何とかして昔の姿に戻してほしい。
お土産屋の数は,熊野本宮大社や熊野速玉大社の比ではなく驚いた。
お土産屋が連なる階段をさらに延々上る。