2020.3.29全面改訂(2000.11.27新規作成)
日高本線
日高とは1869(明治2)年,「東夷のうちに日高見国あり」という日本書紀の故事から国名として命名されたもの。北海道を知り尽くした松浦武四郎が,あえてこの地に日高の名を当てたのは,道内でも比較的温暖な地域であり,古来多くの人が住んでいたことが背景にあるように思われる。
急行列車が走っていたころは単なる通過点だった沿線も,いまなら落ち着いて訪れることができる。行きつ戻りつしながら,濃密な歴史空間に浸ってみたい。
日高本線の概要
●歴史
1910年(明治43年),全国的な新聞用紙の需要増を背景に王子製紙苫小牧工場が操業を開始した。鵡川や沙流川の流域がパルプ原木の主要な供給地となり,流送により河口近くまで搬出された原木を苫小牧に運ぶため,苫小牧~鵡川間に馬車鉄道を敷設,1913(大正2)年には苫小牧軽便鉄道として佐留太(現・富川)まで開業した。
1926(大正15)年,日高拓殖鉄道が静内まで開業,1927(昭和2)年に国有化されて日高線となり,1931(昭和6)年までに軌間1067mmに拡幅された。以後,日高三石,浦河へと順次延伸し,1937(昭和12)年8月10日,様似へ到達。1943(昭和18)年11月,富内線が沼ノ端分岐から鵡川分岐に変更された際に,日高本線と改称した。
もともと広尾を経由して帯広を結ぶ計画だったが,様似から先は長らく峻険な山道によるしかなかった難所で,1946(昭和21)年通称黄金道路を経由する様似~広尾間の省営バス路線が開設,JR北海道バスに継承されて現在に至る。
1959(昭和34)年6月,札幌-様似間に準急えりも運行開始。1966(昭和41)年急行化して3往復体制となり,沿線住民のみならず,襟裳岬などを訪れる周遊券旅行者で賑わった。
1984(昭和59)年2月貨物営業廃止,1986(昭和61)年11月1日支線の富内線および急行えりも廃止。1990年7月,ローカル線活性化のための北海道最初の運輸営業所として日高線運輸営業所設置。
2015年(平成27年)1月,高波による路盤流出のため,鵡川駅~様似間が不通となる。以降同区間は長く代行バスでの運行が続いており,鵡川~様似間は廃止,バス転換する方向で今後協議が進められる予定となっている(2020年3月現在)。
●車窓
苫小牧を出るとしばらくは茫漠とした原野を行く。どこまでも真っ直ぐな線路と,人家がまったく見えない大地に感動。鵡川,沙流川という大きな川を渡って,門別からは競走馬の生産地に入る。三石や浦河からは神々しい日高山脈を遠望し,海に浮かぶ親子岩を見て様似に着く。
線内は静内を境に車窓風景が大きく異なる。静内まではおおむね海岸線を行き,静内からは山に入ったり海に出たりを繰り返す。海がよく見える区間は意外と少なく,汐見-富川や厚賀~大狩部,静内~東静内など。東町~日高幌別の昆布干し風景は,全国でもほとんどここでしか見ることのできない日高本線の見せ場である。
沿線は観光化されていないアイヌ文化が色濃く残る地域であるが,車窓からそれを感じることは困難である。アイヌのことに触れようと思うなら,富川からバスの出ている平取町二風谷地区やシャクシャインゆかりの地である静内の真歌公園を訪れておきたい。
●運行系統
列車は苫小牧~鵡川間で9往復設定されている。鵡川から先は2015年以降代行バスでの運行となっており,途中の静内で全便乗り換えとなる。汐見,荻伏,絵笛,浦河,東町,西様似は駅からやや離れたところに乗降場所があるので注意。
ほぼ全区間で路線バスが並走しており,苫小牧~浦河は道南バス,荻伏~様似はJR北海道バスの便がある。また,札幌方面へは1984(昭和59)年に札幌~浦河間で道南パスがペガサス号の運行を開始,さらにJR北海道バスが2001年から高速えりも号(札幌~えりも間),2004年から高速ひろおサンタ号(札幌~広尾間)を運行している。
●利用状況
かつて沿線の人口は10万人を超え,地元住民の利用が多い路線だった。また,道内有数の観光路線で,えりも岬やアポイ岳,競走馬の牧場などを訪れる人たちで,休日や休み期間中はいつも混雑していた。
しかし鵡川から先が代行バスとなってからは,地元高校生以外の利用者がほとんど見られなくなっている。それでも,静内,浦河,様似の有人駅は従来どおり営業しており,特に静内駅は列車が走っていたころと変わらない賑わいを見せている。
●車両
1989年3月に日高線専用車両としてキハ130形が投入されたが,車内が暗く狭いことから利用者に不評で,乗務員に重傷をきたす衝突事故を発生させたこともあり,新製から約10年で全車廃車となった。
1998年以降,機関を換装し,内装・外装を日高線オリジナルに改装したキハ40形350番台10両が投入され,ゆとりある汽車旅が楽しめるようになっている。
それでは,日高本線各駅停車の旅をお楽しみください