鵡川大漁地蔵尊大祭

訪問日:2007年8月24日(金)

場所:鵡川大漁地蔵尊境内

地蔵菩薩の縁日である8月24日の前後を地蔵盆という。この日に向けて,路傍の地蔵は洗い清められ,新しい前垂れを着せられる。地蔵盆は特に関西地方で盛んな風習だが,道内で盛大に行事を催す地域としては,むかわ町宮戸地区や,由仁町三川地区が知られている。双方とも地蔵祭りの中で仮装盆踊り大会が行われ,時期遅れの盆踊りとなることから,遠方からも多数の参加者を得て大変賑わうという。

 

この日訪れた鵡川の祭りは,「鵡川大漁地蔵尊大祭」「むかわ地蔵まつり」と,2つの名前を持っている。180年以上続いているとされる北海道屈指の歴史ある祭りである。毎年8月23日,24日の2日間にわたって開催され,迎え火,灯籠流し,盆踊りと,一連の盆行事が執り行われる。雨が降ることでも有名なのだそうで,毎年必ず雨に降られるという。

 

鵡川大漁地蔵尊はもとの名をイモッペ大漁地蔵尊といい,名は旧字名の井目戸(いもっぺ)に由来する。円空作とも伝えられ,文政8年(1825)に,アイヌのエカシ,シゲアンクルが入鹿別の浜に漂着しているのを発見し,勇払に奉祀した。その後数度の遷座を経て,現在は立派な堂宇の中に祀られている。右の写真は六地蔵尊。

 

境内には水子地蔵尊などほかにもたくさんのお地蔵さんが祀られている。

前夜に灯された迎え火。今宵はタマ送りの行事として灯籠流しと仮装盆踊りが行われる。

18:30〜 灯籠流し

 

遙かに樽前山を望む原野に,イモッペ川がひっそりと流れている。最近は,ろうそくを灯すと自動的にお経が流れるという便利な灯籠があるようである。通信販売で購入したものだというが,代表者が持つその文化灯籠からお経が流れる中,参加者たちは,灯籠をそっと水面に浮かべていた。一つ一つの灯籠は亡くなった人たちの霊であり,水面を抜きつ抜かれつゆらゆらと漂う様子には,生前の性格が現れているようでもある。知った人同士,灯籠の流れる様に亡くなったお爺ちゃんやお婆ちゃんの姿を重ね合わせて,昔を偲んでいた。

 

境内は出店も多く,たくさんの人で賑わっていた。

19時からの歌謡ショーを挟んで,20時から地蔵まつり恒例の盆踊りが始まる。縁結びにご利益があるとされるお地蔵さんの前での盆踊りは特に若い男女にとって特別な意味を持つもので,古くからたくさんの参加者を集めてきたといわれる。

櫓は土俵の上に組まれていた。今日は午後から相撲大会が行われ,もと安芸乃島の千田川親方や行司の木村和一郎が訪れた。

20:00〜 仮装盆踊り大会

子供盆踊りはなしで,いきなり北海盆唄による仮装盆踊りである。ところが予定の20時を過ぎても,なかなか踊りが始まらない。男性の名前が何度か呼び出されたが,見あたらないらしい。櫓の上では,司会者が困困り果てた表情をしている。どうやら,唄い手がまだ来てないようなのだ。

20時21分,ついに司会者が覚悟を決めたというふうで「サァ始めて参りましょう」と気合いを入れ,自らマイクを持って唄い始めた。

司会の女性は,むかし歌の仕事もしていたそうで,先ほどのカラオケ大会では美空ひばりのお祭りマンボを自ら歌っていた。それだけに声や節回しはしっかりしているが,歌詞カードがないのである。

延々「北海名物数々あれど……」を繰り返すばかり。囃子方の少女にマイクを向けてみるが,少女たちもやはり歌詞を覚えてはいないのである。

仮装盆踊り大会動画1(「北海名物……」の繰り返し,4.3MB)

これは何とかしなければと思い,私は本部に走り,紙を請うた。しかし,櫓の上が悲惨な状態になっているということは,誰も気がついていないのである。本来の唄い手が会場に来ていないと思われること,それで同じ歌詞ばかりを繰り返し唄っていること,自分は歌詞を知っているので紙に書いて渡したいこと,長々と説明してようやく理解を得,メモ紙に4つほど歌詞を書いて,櫓の上の司会者に渡した。渡した歌詞は次の4つである。

踊り揃うて 輪になる頃は 月も浮かれて 円くなる
波の花散る 津軽の海を 越えて蝦夷地へ いつ来たか
はやし太鼓は 男の心 女心は 笛の音
唄え踊れよ 叩けよ太鼓 月の世界に 届くまで

これで,なんとか形になったかとほっとしたところ,唄を聴いてまた冷や汗が出てきた。走り書きだったので字が判読できずに歌詞を読み間違っているのである。

仮装盆踊り大会動画2(5.8MB)

これはいけないと思い,再び本部に走って別の歌詞を書き始めたとき,急に格調の高い歌詞が櫓から聞こえてきた。はっとして振り返れば,ようやくお師匠さんが到着したのであった。

仮装は手の込んだものが多かった。

列車の時間も迫っていたので,盆踊りが軌道に乗ったのを見届けて,会場を後にした。わずかな時間しか聴けなかったが,お師匠さんが到着した後に唄われた歌詞は次のとおりである。

踊り見に来て 踊りの中で 何時か手を振る 浴衣がけ
咲いた桜に 何故駒つなぐ 駒が勇めば 花が散る
北海名物 数々あれど おらが国さの 盆踊り
波の花散る 津軽の海を 越えて蝦夷地へ いつ来たか
五里も六里も 山坂越えて 逢いに来たのに 帰さりよか
唄え踊れよ 叩けよ太鼓 月の世界に 届くまで
色も香もよい 丸くて可愛い 味は十九の 初リンゴ
主が唄えば (踊りも締まる 月の世界に 届くまで)
※(   )内は一般的な歌詞からの推測