第33回ペーパン盆踊り大会
訪問日:2007年8月15日(水)
場所:旭川市旭川第一小学校屋内体育館
旭川市街から旭山動物園まで来ると,既にかなり山が迫ってきたという感じがするが,そこからさらに奥地へと約20kmにわたって豊田,米原,瑞穂と谷底に集落が続く。ここはもとペーパン(米飯)と言われたところで,明治31年,福島県伊達郡から入植した128戸の農民によって開拓されてきた。
北海道の盆踊りはどこでも最初は郷里から持ち込まれたものがそのまま踊られていたのであるが,全国各地からの移住者が混合した状態になってくると,盆踊りも徐々に郷土色が薄れていき,戦後は北海盆唄へと統一されていった。しかしそんな中でも,郷里の盆踊りが現在まで消滅せずに残っている事例がごくわずかにあり,ペーパンの「福島踊り」はその1つである。
東旭川農協米飯支所のある米原市街。正面の記念坂を越えた先が福島団体の入植地である。
太田神社境内に建つ福島団体記念碑とペーパンの水田地帯。この奥に道立旭川21世紀の森があり,私は小学生の頃家族で何度も訪れた。当時はまだ茅葺き屋根の農家が多数残っており,北海道離れした風景が印象に残っている。
校名も誉れ高い旭川第一小学校。米飯川の川筋には,ほかに旭川第四小学校,同第六小学校,同第一中学校があったが,現在残っているのはこの第一小学校のみで,全校児童20名である。
盆踊りはグランドで行われる予定で,櫓やテントも組まれて,出店もあったが,雨の予報が出ていたので会場が体育館に変更になった。この辺りは集中豪雨で有名なところだそうで,安全策をとったのだろう。校内には盆踊りのポスターがびっしりと張り巡らされていた。
18:30〜18:53 子供盆踊り
盆踊り大会は子供盆踊り,福島踊り,北海盆踊りの3部構成である。定刻の18時30分,子供盆おどり唄が流れ出すと,子供たちは待ってましたというように一斉に輪に加わり,すぐに踊りの輪ができた。学校で開かれているということで,子供たちも学校行事の一環という感覚で参加しているようである。
子供盆おどり唄は持田ヨシ子盤が使用されていた。太鼓は大太鼓のほか民謡の演奏に使われる締太鼓が入っているのが珍しい。また,時計回りで踊るのも珍しいが,これは福島踊りの影響を受けているのだろう。
子供盆踊り動画(4.2MB)
約20分で子供盆踊りは終了し,子供たちは行儀良く正座して豪華なお土産をもらっていた。
18:55〜 開会式
子供盆踊り終了後,改めて開会式が行われた。進行は小学校の教頭先生が務めていた。まずきれいな着物姿の東旭川公民館米原分館館長が挨拶に立ち,審査委員として福島踊り保存会会長,米原へき地保育所所長,JA東旭川米飯支所所長らが紹介された。まさに地域全員参加の盆踊りである。
開会式の後,参加者は受付でゼッケンを受け取っていた。
19:07〜19:22 福島踊り
いよいよ福島踊りが始まった。福島踊りは明治31年に入植した福島団体が,故郷の福島県伊達市保原町の盆踊りを持ち込んだもので,昭和40年に保存会が結成された。平成14年に初めて福島県へ里帰りして踊りを披露するなど,近年ますます郷里との交流が活発になっている。
踊りは北海盆唄ほど簡単ではないが,越後盆踊りよりは踊りやすそうに見えた。学校でも授業で盆踊りに取り組んでいるようで,子供たちもみんなきちんと踊っていた。
演奏は福島踊り保存会が担当し,大太鼓,締太鼓のほか篠笛と鉦が入っていた。
福島踊りは約15分で終了し,参加者全員に賞品が配られた。
福島踊り動画(5.0MB)
19:30〜20:09 北海盆踊り(懸賞踊り)
最後のプログラムは,北海盆唄による仮装盆踊りである。演奏は引き続き福島踊り保存会が担当し,間奏が非常に長く取られていた。輪の進行方向は子供盆踊りから一貫して時計回りである。
唄い手は声が細く心もとなかったが,仮装して踊っていた奥様が請われて途中からステージに上がり,花笠をかぶったままマイクを持った。するともう,それまでとは全然迫力が違うのである。同じ唄でも唄い手が替わればこうも違うものかと驚いた。しかも,「三味の糸でも……」「してもしたがる……」など,ほかでは滅多に聴けない歌詞が次々に繰り出されて仰天した。
唄われた主な歌詞は次のとおりである。
ちゃんこ茶の婆 お茶出せ茶出せ お茶がなければ 娘出せ
今年や豊年 ほに穂が咲いて 道の小草に 米が成る
一度見せたい 故郷の人に おらが自慢の 艶姿
唄え踊れや 叩けよ太鼓 月の世界に 届くまで
主が唄えば 踊りも締まる 月の世界に 届くまで
来たは十七 蕾の頃に 今は二十一 花盛り
北海名物 数々あれど おらが国さの 盆踊り
波の花散る 津軽の海を 越えて蝦夷地へ 帰さりよか
五里も六里も 山坂越えて 逢いに来たのに 帰さりよか
五里も六里も 山坂越えて 越えて蝦夷地へ いつ来たや
北海名物 数々あれど 一に追分 盆踊り
旭山から 谷底見れば 瓜や茄子の 花盛り
踊り踊りたし この子が邪魔だ この子騙すような 守り欲しい
三味の糸でも 切れれば結ぶ 主と私は いつ結ぶ
男持つなら ○○○○○○○ 男持たなきゃ ○○○○○
踊り踊るなら 品よく踊れ 品のよい子を 嫁にとる
踊り踊るなら 三十が盛りよ 三十過ぎれば 子が踊る
(めでためでたの) 若松様よ 枝も栄えて 葉も茂る
(してもしたがる) 爺様と婆様 今朝もしてきた 寺参り
※「○○○」は歌詞不明,( )内は一般的な歌詞からの推測
北海盆踊り動画(6.1MB)
終了後,各賞の発表があり,アリーナの真ん中に山のように積まれていた豪華景品が受賞者に配られた。最優秀賞は「ハワイアン」だった。終わりに餅まきが行われ,花火の合図で20時45分終了。
旭川市内といっても1日にバスが2往復しか来ない奥地である。来るときは旭川駅前から天人峡行きいで湯号に乗車,東川町営バスに乗り換えてキトウシ森林公園で下車。山道を1時間半歩いてやってきたのだが,帰りはどうしようもない。東旭川のハイヤーを呼ぶと,車が来るまで30分かかった。