全夕張仮装盆踊り大会

訪問日:2009年8月15日(土)

場所:夕張市清水沢駅前イベント広場

かつて道内最大の炭都であった夕張市も,いまや人口は全盛期の10分の1足らずである。その人口減少の激しさからいっても,やはり夕張市は産炭地の象徴的な存在である。しかし夕張市をはじめ,歌志内市など人口減少の著しい地域においてこそ,盆踊りがますます盛んに行われている様子を見ることができる。

夕張市内では,現在でも8月に入ると,あちらこちらの集落で盆踊りの小さな櫓が建つが,そのその締めくくりともいえる全市規模の盆踊り大会が,清水沢で行われる全夕張仮装盆踊り大会である。

会場はJR清水沢駅に隣接するイベント広場である。

全夕張いえども,基本的には清水沢地区の夏祭りとしての開催であり,地域の企業が協賛している。清水沢から夕張川の本流を5kmほどさかのぼったところに建設されている夕張シューパロダムの工事は,地域の経済に少なからず影響を及ぼしているようである。

 

広場には露店もたくさん出て,地域住民が短い夏の夜のひとときを楽しんでいた。

19:00〜 子供盆踊り

19時,時間どおりに子供盆踊りが始まった。曲はタンポポ児童合唱団盤がクリアな音で再生されていた。太鼓の伴奏はなかった。

赤い法被を着た女性団体の人たちが先導で踊っていたが,振り付けが本来と異なっていた。まず,「そよろそよ風 牧場に街に」で,本来は片手を斜め上に,もう片方の手をかざした手の肘下あたりに当てるという動作を左右交互に4回繰り返すのであるが,ここを両手を高く上げてゆらゆらと動かすような振り付けとしていた。そして,本来は「街に」の「に」に入ったところから回転動作に入るのであるが,それより4呼間早く回転に入っていた。しかも,回転は270°で止め,円心向きになるはずのところ,360°回転して円周向きに直り,以降ずっと進行方向を向いたまま踊っていた。

その後は,体の向きを除けば妙に正確な振り付けが見られたが,「シャンコシャンコ」のところでは,片手を斜め下に流すのは立派として,もう片方を掌を立てて顔のほうに持ってくる「立てさしかざし」の形になっていたので,勢い子どもらしさがなくなっていた。この立てさしかざしは,のちに本来の形に改められたが,最初の「そよろそよ風……」の部分は,最後まで独自の振り付けが通された。この箇所は盆踊りとして最も基本的な所作であり,間違えることがあるとは思えないが,なぜ改変されたのか不思議である。

道内に広く普及している「子供盆おどり唄」は昭和27年の制作であるが,夕張では昭和32年に「夕張子ども盆踊りの歌」が独自に製作されている。「子供盆おどり唄」がこの地の盆踊りにいまいち馴染んでいないように見えたのは,この独自の盆踊り唄の存在があるのかもしれない。

子ども盆踊りといえばどこでも,ビデオカメラを持って子供について回っている親の存在が,見る側にとっては目障りなのであるが,この盆踊り会場ではそのような親御さんは皆無だったのが印象的だった。

子ども盆踊り動画(MP4,6.2MB)

きっちり1時間踊り,子供たちはその場にしゃがんでカップ菓子を1つずつもらっていた。

20:00〜 仮装盆踊り

子ども盆踊りが終わるとまもなく太鼓の勇壮な音が響き始め,20時05分,「ただいまから仮装盆踊り大会を始めたいと思います」と司会者が宣言した。踊り方は標準型に近く,歌志内や三笠で今も見られるようなべっちょ系の踊りはなかった。

唄は地元の民謡愛好者が担当していた。夕張市は北海盆唄全国大会でもたびたび入賞者を出している土地柄でもある。人口が1万人余りに減ったとはいえ,10万人都市時代の文化の名残がこの辺にも見て取れるように思われる。唄はまだあどけなさの残る少女たちと,彼女たちから見ればおばあちゃんの年代にあたる年配の女性が主に担当していた。少女たちはうちわに書かれた歌詞を見ながら,限られた歌詞を繰り返し唄っていたが,年配の唄い手は空を見ながら暗唱で唄っており,次々に新しい歌詞を繰り出していた。唄われた歌詞は次のとおり40種類に及び,1か所の盆踊りで唄われた歌詞としては最多クラスである。歌唱型はIII型であるが,標準よりも間奏(太鼓のみ)を4拍多く取っていた。

北海名物 数々あれど おらが国さの 盆踊り
唄え踊れよ 叩けよ太鼓 月の世界へ 届くまで
山は大雪 雲間に晴れて 蝦夷の昔を 語るやら
盆が来たのに 踊らぬ者は 木仏金仏 石仏
高い山から 谷底見れば 瓜や茄子の 花盛り
月はまんまるだよ 踊りもまるい 主と私も まるい仲
若い日本の 憧れ抱いて 夢も明るい 北海道
北海名物 数々あれど 山に湖 湯の香り
春は山菜 夏場はメロンで 秋はきのこを食うて 冬籠り
五里も六里も 山坂越えて 逢いに来たのに 帰さりよか
唄に誘われ 太鼓に引かれ 今来たこの道 二度三度
来たは十七 蕾の頃に 今は二十一 花盛り
はやし太鼓は 男の心 女心は 笛の音
波の花散る 津軽の海を 越えて蝦夷地へ いつ来たか
踊り踊るなら 品よく踊れ 品のよい子を 嫁にとる
主が唄えば 踊りもはずむ 櫓太鼓の 音もはずむ
踊り揃うて 輪になる頃は 月も浮かれて 円くなる
老いも若きも 手拍子揃え 櫓太鼓の 音もはずむ
踊り見に来て 踊りの中で 何時か手を振る 浴衣がけ
踊り上手と 噂の彼を 抱いて嬉しや 恥ずかしや
咲いた桜に 何故駒つなぐ 駒が勇めば 花が散る
立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は 百合の花
踊り踊る娘が 何故足袋履かぬ 履けば汚れる 褄切れる
声はすれども 姿は見えぬ 藪に鶯 声ばかり
夕張よいとこ 一度はおいで 甘いメロンに 希望の丘
盆の十六日 二度あるならば お墓まいりの 二度詣る
ちゃんと抱きしめ 手枕させて 指で操る 三味の糸
夕張よいとこ みなさまござれ 暑い○○○の 風が吹く
沖でドンドは 波音瀬音 陸でドンドは 北海道
たとえ山中 三軒家でも 住めば都の 風が吹く
空の星さえ 夜遊びなさる わしの夜遊び 無理もない
唄いなされよ お唄いなされ 唄でご器量が 下がりゃせぬ
内地出るときゃ 涙で出たが 今じゃ北海道で 笑い顔
ちゃんこ茶屋の婆 お茶出せ茶出せ 煙草盆出せ キセル出せ
娘島田に 蝶々がとまる とまるはずだよ 花じゃもの
親の意見と 茄子の花は 千に一つの 無駄もない
盆が来たかて お正月来たて 親父着せなきゃ 丸裸
恋に焦がれて 鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が 身を焦がす
姉と妹に 襷を着せて どちが姉やら 妹やら

仮装盆踊り動画(MP4,4.6MB)

踊りは,休憩なしで1時間半以上続き,21時40分終了。ただちに表彰式に移った。表彰されたのは団体は優勝のみ,個人の部は優勝〜13位だった。賞品は清水沢商店街加盟店のお買物券と,優勝者には読売新聞社提供のトロフィーが贈られた。ほか赤い法被で踊りを盛り上げていた町内会の婦人部に謝礼が贈られた。

続いて抽選会。踊りの最中に番号札が配られたが,白いボールが出れば奇数,黒いボールが出れば偶数という単純なもの。結果は一瞬で決まり,奇数の番号札を持っている人が当選ということになった。当たりの商品は清水沢商店街加盟店のお買物券,はずれの参加者にも箱ティッシュが1つずつ配布された。

22時で本日の盆踊りは終了。参加者たちは満足した様子で歩いて家路に着いていた。