北海道の
種子屋
さん
開拓使の時代から西洋の野菜が国内に先駆けて導入され,夏季冷涼な気候が欧州の花々の栽培を可能にする北海道では,花や野菜の種子屋さんが元気だ。札幌よりもむしろ地方に魅力的な種子屋さんが存在し,その土地の気候に合ったタネを取り揃えている。大手種苗メーカーでは扱っていない固定種もまだまだ健在だ。
以下に,これまで訪ねた主な種子屋さんを紹介する。札幌より北,東に位置する種子屋さんはだいたい巡ったと思っているが,後志,胆振,渡島,檜山方面は未訪である。また,情報が古くなっていることもあるのでご承知おき願いたい。
花の種子屋さん(野菜も充実)
花は苗を買って植えるのが主流になりつつあり,花のタネの小売りは近年激減している。その中で花のタネで頑張っているのは,花に相当の思い入れがあるということだ。ここに紹介するのは,おおむむね棚の半数程度が花のタネで占められている種子屋さんである。
大友種苗園(士別市)
道内の種苗店では恐らくもっとも花のタネに力を入れており,特にベゴニアとトルコキキョウの品ぞろえは圧巻。業務用大袋の小分け販売も数多い。お店の方は花,野菜とも詳しく,他の店ではまずおすすめされないような通好みの品種を教えてくれることが多い。現代風の店構えだが,会計はそろばんを併用しているのも貴重。JR士別駅から徒歩約10分。
城宝種苗園(富良野市)
花のタネへの力の入れ方は,大友種苗園とともに道内の双璧と言える。花,野菜とも城宝種苗園オリジナル規格と称する絵袋が豊富。大手種苗メーカーの通信販売用小袋も試験的に入荷することがある。用土,肥料の小分け販売があるのも家庭向けにはありがたい。もとは富良野市街の中心部に小売店舗があったが,2016年から郊外の学田3区に移った。季節営業で,例年2月中旬から土曜も営業,4月からの繁忙期は日曜も営業する。バス停はふらのバスラベンダー号「基線」または中央バス高速ふらの号「北の峰入口」が最寄。
紫竹ガーデン(帯広市)
もともと花のタネの豊富さでは全道随一で,札幌採種園や福花園種苗のタネなどこだわりの絵袋を取り揃えていたが,近年はトーホクやウタネなどホームセンターでも扱っているメーカに置き換わりつつある。野菜のタネもかなり多いほう。2019年は珍種を扱う藤田種子の絵袋を網羅的に揃えていた。球根や花の苗,苗木も多く,特に球根は他の種苗店とは別格の取り揃えである。
野菜の種子屋さん
野菜のタネは花と比べて郷土色が強く,種子屋さんの個性が棚によく現れる。ここでは,特に多くの種類のタネを扱いつつ,棚の構成にこだわりを感じる種子屋さんを紹介する。
タネショウシードコンサルタント(栗山町)
野菜の種の取り揃えでは,道内最大級と思われる。全国各地のいろいろな種苗メーカーから優良品種を集めており,1点1点にこだわりを感じる。
大谷種苗(深川市)
石狩平野北端の穀倉地帯である深川市にある大きな種苗商社。農業資材を幅広く扱うが,駅前十字街にタネを扱う小売店舗がある。大豆の「北海黒」「黒い瞳」「北の初恋」など,自社育成品種が多数あり,独自の絵袋で販売している。花,野菜系に強い拓殖大学北海道短期大学が市内に立地していることから知識ある市民が多いようで,お店の方も博識である。
マツダ樹生園(音更町)
農業王国十勝を代表する大きな種苗商社。十勝の農業と言えば,豆やイモ類が主だが,意外なことにメロン類のタネが充実している。屋外には広大な苗もの売り場ある。
オールマイティな種屋さん
花,野菜を問わず一流の品揃えで,行きつけのお店にしたい種子屋さん。
寺岡種苗園(旭川市)
総合的に見て北海道を代表する種子屋さんと言える。野菜のタネは播き時に合わせた棚の入れ替えを随時行っており,旭川の気候に合わせた播き時の説明書きが添えられているのもありがたい。温室は商品を入れ替えながら通年営業しており,屋外の花苗売り場も積雪期を除いて常時たくさんの苗を置いているのも,道内の種苗店としては珍しい。
フジイ種苗園(旭川市)
大手種苗メーカーの絵袋中心だが,花,野菜とも扱う種類は道内屈指。資材や書籍には昭和の時代のものと思われる売り物も多く興味がそそられる。
遠軽種苗園(遠軽町)
湧別川筋一円からお客さんを集める種子屋さん。お店の方は土地の気候を熟知しており,栽培法にも詳しい。春から初夏にかけて花,野菜の苗が店の周りにびっしりと並ぶのは圧巻。有機肥料,用土類が小袋から大袋まで各種取り揃えてあるのも,ほかの種子屋さんではあまりないこと。
個性派の種子屋さん
タネ袋の数は限られるものの,一癖あるラインナップの種子屋さん。行けば必ずタネとの新鮮な出会いがあるはず。
カネツ種苗園(旭川市)
野菜のタネのラインナップが独特であり,道外の妙な地域の郷土品種が入っていたりする。行くたびに思いがけないタネとの出会いがある。
マエダ種苗(富良野市)
富良野の市街で頑張っている不思議な種子屋さん。独特のこだわりがあるようで,花,野菜ともほかの店では見かけない絵袋を置いている。少数ながらオリジナルの小袋もある。
旭川農園(旭川市)
上川百万石・旭川市の街なかにある老舗の種屋さんで,木製の種子箪笥が置かれるなど,往年の種子問屋の風情を残している。豆にはこだわりがあるようで,自家採種と思われるタネを量り売りしている。近年は繁忙期でも土日は店を閉めている模様。
JAふらの資材センター上富良野店(上富良野町)
1990年代以前はサカタのタネの絵袋を多数扱っていた。近年小売りのタネの取り扱いを縮小する農協が多い中で,この店舗では複数メーカーからタネを入れており,種苗店ともホームセンターとも異なる独特の棚構成となっている。花のタネも多く,富良野市のマエダ種苗独自規格の小袋が置かれていることもある。野菜の種類ごとに栽培法の資料が無料で配布されていることからも,力の入れようがわかる。
永池育種農場(栗山町)
採種事業者の小売店舗。ホウレンソウなどに自社登録品種を有している。
ササキ種苗 卸団地店(北見市)
道内でも日照時間が長い北見地方の種子屋さん。タネの種類は多くないものの,ほかでは見ることがないマイナーなメーカーの絵袋に出会える。花はタキイの通信販売用小袋や福花園種苗の絵袋など珍しいものを扱っていた。
ササキ種苗 大通店(北見市)
同じくササキ種苗の小売店舗で,こちらは北見駅の近くにあり一般のお客さんが多い。タキイの通信販売用小袋や福花園種苗の絵袋が置いてあるのは卸団地店と同じだが,品ぞろえは店ごとに個性がある。
えこりん村(恵庭市)
タネの種類は道内でも最大級。タキイ種苗,アタリヤ,トーホク,カネコ種苗の絵袋を取り揃えているほか,英国ミスターフォザーギルズシード,イタリアFRANCHI社など輸入種子を揃えていた。
北の住まい設計社(東川町)
「たねの森」やイタリアHORTUS社の野菜の絵袋を販売していた。
エスエヌシー サッポロノウエン(札幌市)
Webでの販売も手掛ける老舗。お店の方は北海道の在来品種に造詣が深い。
その他の種子屋さん
タネのノザキ(札幌市)
札幌の中でも農業が盛んな北区のはずれにある種子屋さん。家庭菜園や直売所向けのタネを多く扱っている。
北都種苗商会(札幌市)
札幌市西区の街なかにある不思議な種屋さん。
水野種苗店(帯広市)
オリジナルの有機石灰を扱うなど、土壌改良材、肥料関係に特徴あり。
雪印種苗園芸センター(札幌市)
北海道を代表する種苗メーカーの小売店舗だが,タネはあまりない。
ガーデニングハウス 四季倶楽部(北見市)
もと東相内にあったサン園芸の小売店舗がJAきたみらい内に移転したもの。大手種苗商社の絵袋中心に取り揃え。
西(遠軽町)
せんべいとタネのお店。せんべいが有名だが,種子屋としても正統派を行く。
今はなき種子屋さん
札幌興農園(札幌市)
東急百貨店さっぽろ店の向かいにあった老舗。タネの品ぞろえは道内第一級だったが1997年閉店。
東急ハンズ札幌店(札幌市)
1998年,市電通りにオープンした東急ハンズにも開店からしばらくはタネの販売コーナーがあった。タネの品ぞろえは閉店した札幌興農園に迫るものがあった。
野崎種苗園(留萌市)
夏は温暖で米や果樹もできる留萌の種子屋さん。気の利いたタネの取り揃えで,私が初めてサツマイモの魅力を知ったのもこの店だったが,惜しくも2017年12月で閉店した。
十勝豊産園(帯広市)
帯広の駅近くにあった昔ながらの種子屋さん。2017年に閉店した。
北川種苗(釧路市)
霧の深い釧路駅の北側でひっそりと店を構えていたが,2015年の夏に閉店した。
道外編
三重興農社(三重県四日市市)
e-taneyaという種の通信販売サイトも運営している種子屋さんの実店舗。野菜のタネに関しては,これまで行ったどの種子屋さんよりも種類が多かった。逆にここまで種類が多くても仕方がない気がしてくるほどである。
赤松種苗(大阪府大阪市)
天王寺駅前商店街で広々とした間口を構え,国内屈指の歴史をもつ種子屋さん。野菜の種の取り揃えは第一級で,直売農家の利用も多い。
サカタのタネ ガーデンセンター 横浜(神奈川県横浜市)
国内最大の種苗メーカー「サカタのタネ」の直営小売店舗。資材や花苗は充実しているが,タネはさほどでない。
なばなの里 花市場(三重県桑名市)
花卉栽培が盛んな東海地区最大級の品ぞろえを称するだけあって,花苗の数はすごいが,タネはあまりない。