ニニウに高速道路ができる!

1999年11月23日のニニウ調査で私たちは衝撃の事実を知ってしまった。

 振り返ってみれば異変は福山から起こっていた。
 ニニウ。札幌からは国道274号線で夕張市紅葉山に至り楓峠を越え,穂別町福山から道道610号占冠穂別線に入り鵡川を遡るのが唯一の道筋である。
 写真は福山の交差点で札幌に向いて撮影したものである。ニニウへはここで右に曲がる。
 道道占冠穂別線は国道274号石勝樹海ロード開通後も,改良工事がなされることなく砂利路として残っており,見捨てられた道道のようであった。
 国道から同道に入るとすぐに舗装は切れるのであるが,驚いたことに舗装が延びでいた。それも,1.5車線のまま線形改良することもなく最低規格の舗装である。
 道道の工事のやり方というのは部分的にでも最初から完璧に仕上げていくのであるが,ここは「とりあえず」舗装した感じである。案の定,舗装したそばから路肩が崩れていた。

どうしたんだ!
やがて舗装は切れ,いつもの砂利道に戻った。

この道道610号舗装事件が高速道路の建設と関係があるとは,そのときは知る由もなかった。

次の異変は清風山信号場だった。


清風山信号場入口(1998.6)
 ゆえあってニニウを訪れるときは必ず清風山信号場による。信号場の入口はいつもは上のような何もないところである。
 ここに右のような看板が立っていた。そして,「調査期間中発砲禁止」と書かれていた。調査の行為者は「日本道路公団」とある。道路公団がやる工事といえば高速道路くらいのものである。この山の奥を高速道路が通ることになるのだろうか。

 北海道横断自動車道,通称道東自動車道はつい先ごろ1999年の10月に夕張ICまで開通したところである。
日勝峠は難所であることから高速道路の建設が急がれていることは知っていた。しかし,ルートは日高町経由で日勝峠は長大トンネルで越えるという予想がもっぱらだった。

 この山の奥を通るということは夕張からかなり北を迂回することになる。ひょっとして,道東自動車道は占冠経由になるのだろうか。そんな期待が私たちの脳裏をかすめた。

しかし,まだニニウの真ん中を高速道路が通ることになるとは思いもしなかった。

約1年ぶりのニニウ。11月下旬ともなれば誰もいなくて当然である。
前と変わらぬ,私の原風景がそこにはあった。

今日はキャンプ場を訪ねてみようと思う。キャンプ場を1周2.5kmのサイクリングロードが囲んでいる。私たちは鵡川のせせらぎを聴きながらサイクリングロードを歩き始めた。

ここで決定的なもの見つけてしまった。

 サイクリングロードを横切って一筋の線があった。頑丈な杭が打ってある。土木に詳しい友人が言うには,並み大抵の工事ではここまで大げさな測量はしないという。杭はどこまでも続いている。何だろうか。
 「下」と書いてある。「下り」のことか? しからば「上り」は? やっぱりあった。10数メートル離れたところに。 「上り」,「下り」,この幅,もしや…。間違いない。高速道路である。

キャンプ場の管理棟の前には真新しい三角点,水準点があった。
そして,実際ボーリング調査をしているところも目撃してしまった。
サイクリングターミナルは工事関係者で賑わっていた。

ショックとかすかな期待の複雑な気持ちの中でニニウを離れ,占冠物産館の占山亭で食事とした。
店に置いてあった村の広報によれば,道東自動車道は占冠を通ることになっており,占冠中央と上トマムにインターチェンジが設けられるとのこと。今年7月に住民説明会が開かれたところであった。そして早ければ開通は10年後になると書いてあった。

興奮さめやらぬ翌日,占冠村に高速道路の件を問い合わせてみた。

占冠村への質問
(略) 個人的にニニウに魅力を感じ,昭和60年より再三にわたって探訪しております。ちょうど昨日,約1年ぶりに訪ねました。そこで衝撃を受けたのですが,北海道横断自動車道がニニウの真ん中を通ることになっているではありませんか。ニニウの美しい景観はどうなってしまうのでしょうか。満天の星空,蛍の乱舞,耳が痛くなるほどの静寂が魅力だったニニウキャンプ場の敷地内を高速道路が通ることになっていました。整備されたばかりのサイクリングロードも横切っていました。離農後も荒地にせず村のほうで美しく管理されてきたハーブ園,学童農園もつぶされるようでした。さらに,農家建築としても貴重な廃屋が取り壊されることになれば,かつてニニウで人が生活していたという証拠がなくなってしまいます。新入小学校の閉校以来20年以上にわたり,乱開発を防ぐべく村は明確な計画のもとにニニウの整備を進めてこられたと聞いております。今回もキャンプ場の奥の小高い牧草地に登ってみたところ有志の方々により植樹がされており感動いたしました。このような今までの地道な整備が高速道路により無になってしまうような気がして,ショックを受けました。
 いっぽうで,高速道路が日高町ではなく占冠村を経由することになったのは画期的なことで,日本道路公団の判断は英断であったと思います。ニニウを石勝線,高圧送電線,高速道路という道東への幹線が通過することになったのも宿命かとも思います。
(中略)
 村のほうではこの高速道路との関係についてどのようにお考えになっているのか,方針をお聞かせいただければ幸いです。
占冠村からの回答(要旨)

 ニニウ自然の国付近の高速道路通過の件について次のように考えている。
 キャンプ場そのものには高速道の敷地はかからない予定。サイクリングロードの一部が影響を受ける可能性があるので,その際は付け替えが必要。植樹した箇所への影響はない。
 自然を主題に設置したキャンプ場だが,全体的な路線の計画上,付近を通過することが避けられない。できるだけ良好な環境を残せるよう努力していきたい。
(占冠村企画課の方に答えていただきました。どうもありがとうございました) 

 質問の中でも書いたが,高速道路がニニウを通ることは全く理にかなったことで,誰も悪くはないのである。占冠村からの回答も全くそのとおりで,ニニウを通すことにした日本道路公団の判断は英断だったとい言ってよい。

 しかし,あの美しいニニウが高速道路で破壊されては困る。
 公団の人はニニウの貴重さをわかって工事をしているのだろうか。

 高速道路を建設する側の考えと,ニニウを守りたい気持ち。どちらもわかり,なんともやるせない。

結論
ニニウを高速道路が通過することは避けられず早ければ10年後には開通する。
サイクリングロード,散策路,農園が高速道路にかかるほか,美しいニニウの風景が壊される。
ゆえ,ニニウに少しでも関心を持たれた方は,急いで今のうちに楽しんでいただきたい。
日本道路公団には,ニニウの貴重さを理解されたうえで,できるだけニニウを改変せずに工事を行っていただきたい。
ハイウェイオアシスなどにより,いま以上にニニウの景観を活用することができれば救いになる。

 私としては今後,ニニウを「北海道遺産」として道庁に提案し,貴重な農村風景の保護,活用を求めるとともに,定期的にニニウを訪問し,ニニウの変貌の様子を記録にとどめるなどの活動を行っていくつもりである。
 皆様からの情報やご意見をお待ち申し上げます。