塘路から阿歴内,片無去を経て厚岸町太田へ向かう。いまでこそ立派な道路が整備されているが,かつては阿歴内第二小,同第三小,北片無去小などへき地5級校が散在していた標茶町の最奥地である。
阿歴内市街。郵便局,消防,農協,商店とひととおりのものは揃っている。その昔は30校近い小学校があった標茶町も現在では11校にまで減っているが,学校のあるところにはたいてい商店が少なくとも1軒あり小集落をなしている。これは冬になると地吹雪で交通が途絶える釧路根室地方特有の風景であるが,逆に言えば学校がなくなると遠からず商店もなくなるのであり,これらの店の明かりも風前の灯である。今年もまた標茶から学校が一つなくなる。
阿歴内小中学校は丘の上にあって,ずいぶんと立派な校舎である。この学校はしばらく安泰のようである。グランドではもうスケートリンクの枠が設置されていた。
太田市街に大きな看板が出ていたので行ってみた。普通の農家の敷地内にあって,勝手に見るのも気が引けたので外観の写真だけ撮ってすぐに退散した。後で聞いた話では,ここは自由に見学してよく,兵屋の中にも入れるそうである。道内にはいくつか屯田兵屋が現存しているが,郷土館の隣などに移設しているところが多く,このように現地に残っているのは貴重である。
道民の先祖はみんな屯田兵だと思っている人が多いが,屯田兵村は全道に37箇所しかなく,入植戸数も7337戸である。屯田兵は入植形態として特殊な一形態に過ぎない。
1991年5月,太田屯田開基100年を記念して開館。想像以上に立派な記念館で驚いた。考えてみれば太田は昭和30年まで独立した村だったのであり,村の郷土館という位置づけである。太田は初期に設置された屯田兵村なので士族屯田である。士族が入植した土地というのは今でも郷土に誇りを持っており,釧路の旧鳥取村などもそうである。
今日まで「海事記念館」「郷土館」「太田屯田開拓記念館」の入館料が無料となっている。受付の名簿を見ると今日の入館者は数名。平日は入館者が皆無ということも珍しくないだろう。こういう施設を作ることは大変立派なことだが,受付のためだけに職員を1人配置しなければならないのはもったいない。
入口付近にはこじんまりとした自然の展示コーナーが。動物の剥製が一家族のように配置されておりほほえましい。 | 全体の7割程度は屯田兵関連の展示。 | 最後にこの地域の特色ある産業だった採石の展示。 |
屯田兵関連としては旭川の兵村記念館,上湧別のふるさと館と並んで3大資料館といってよさそうである。
厚岸の市街を通り過ぎ,愛冠岬に行ってみた。愛冠岬には北大の自然史博物館がある。しかしここを見学すると,郷土館と海事記念館を見学する時間がなくなるので引き返した。後で知ったことだが,自然史博物館はこの日で今シーズン最後の開館日だったとのこと。見学しなかったことが非常に悔やまれた。
昭和42年に開館した道内有数の古い郷土館。昭和63年,小6のときに一度見学している。当時の旅行記を調べると
「国泰寺資料や漁業資料など,上富にはない大昔の資料が展示してあった。しかしぼくの興味のあるものではなかったのでつまらなかった」
とある。
今日は「史跡国泰寺歴史資料展」が開催されており,有珠の善光寺や様似の等樹院の資料も展示されていた。展示品は第一級である。
お寺にお坊さんが出入りし,妙に賑やかだと思ったら,今日は開創200周年大法要の日だったのだ。200年前の文化元年,幕府が蝦夷三官寺の建立を決定したのである。
「雨の日には雨の日のよさがある」。そのとおりである。
昭和63年間館。役場と対峙して建ち,上から見ると役場庁舎とセットで船の形に見える。事務室には職員が何人か詰めていたが,何かの兼務で働いているのか,役場の作業服を着ておりまったく味気ない。やはり受付には少し陰のあるお姉さんとかが座っていないと博物館らしくない。
受付の名簿を見るとわたしが今日最初の入館者だったようである。無料開放の日曜日でこれでは終わっている。
海事記念館という堅苦しい名前がついているが,漁業に特化した資料館で,広々とした館内に海で使う道具が陳列されている。難破船の残骸などもあり,一人で見ていると怖い。入口にあでやかな「蝦夷錦」が展示してあった。伝説には聞くが本物を見たのは初めてだ。蝦夷錦というのはもともと中国で織られた反物で,樺太アイヌや蝦夷のアイヌの手を経て江戸に渡ったらしい。
なお海事記念館にはプラネタリウムがあるが,時間の関係で見ることができなかった。機会をあらためて訪れてみたい。
以上,厚岸の資料館を見学してきたが,厚岸町内にはこれらのほか北大の自然史博物館,環境省の水鳥観察館を加え,5つもの展示施設がある。これほど展示施設が充実した町というのもあまりないのではないだろうか。
町内で見つけた「カキえもん」のポスター。純厚岸産のシングルシードの牡蠣の愛称が先月決まった。最終選考には「カキえもん」「カキ大将」「海宝」が残り,その中から選ばれた。ドラえもんの親しみやすいイメージと,高級陶器の柿右衛門のイメージを兼ね備えた愛称だという。この名前に対しては賛否両論はっきり意見が分かれるようだが,個人的には良い名前だと思う。
白樺台から釧路市の夜景を望む。
自然ばかりが注目される道東だが,立派な歴史もあるのだとあらためて実感した一日だった。