ツアーのチラシには「オプションの2次会で北の変人坂川さんにも会えます」という怪しげな告知があった。
坂川さんとは,町内で数少ない居酒屋を営んでいる方らしい。
滝上町は人口約3,000人。ハイヤーは19時で営業が終わるということで,特別にホテルの車で市街まで送ってもらった。
2次会の会場「炉ばた」に到着。実は昼間もこの店の前を通って,ひどく味わいのある路地があるなと気になっていたのだが,まさかここで2次会をやるとは思っていなかった。
よく味のしみ込んだ山菜料理などを前にして2次会開始。
STVのディレクターや観光協会hatta氏の同級生なども加わり,9名で2次会が始まった。
今回のツアーに参加するにあたって,私はいくつかの疑問を持って臨んだ。
1つの疑問は,いまどき,なぜ森林鉄道なのかということである。
森林鉄道というのは,鉄道趣味の中でも比較的マイナーな分野で,ファン層はあまり厚くない。それなのに,滝上の人たちは最近妙に森林鉄道に熱くなっている。それぞれ仕事を持っている人たちが,忙しい間を縫ってまで,森林鉄道のことなど調べる意味などあるのであろうか。冷静に考えればそのように思うわけである。
このことについて,hatta氏に問うてみた。
きっかけは「たきのうえ地元学」だったという。hatta氏は平成21年8月に滝上町観光協会のスタッフとして滝上に移住している。当時,町内で自然ガイドができる人の養成が課題となっており,そこでhatta氏らが中心になって立ち上げたのが「たきのうえ地元学」だったという。
まったく知らなかったが,滝上は芝桜だけが見どころなのではなく,旭山動物園と知床の中継地点などとしてツアーに組み込まれることも多く,昨年の秋だけでも滝上の自然を見に来るツアーが19本もあったとのことである。(この話を聞き,占冠村のトマムがリゾート開発されるはるか前,昭和30年代にトマムを巡る東京からのバスツアーがあったという話を思い出した)
町内のガイド団体としては,平成19年設立の渚滑川の会,また,平成7年設立の「NPO法人渚滑川とトラウトを守る会」などがあるが,よりテーマを広げて町の魅力を発見し共に学ぶため,「たきのうえ地元学」は平成22年1月22日に第1回が開催され,今年3月までに計8回を開催,延130名の参加者があったという。
最初は町外から講師を呼んでの講義やワークショップ形式で進められたが,途中から町民自ら発案して企画をすることも出てきた。
その,きっかけとなったのが,森林鉄道だったという。話題が森林鉄道に及んだとき,初めて町民が自ら調べてみようと動き出した。滝上における森林鉄道は「きっかけ」として大きな意味を持つものだったのである。
森林鉄道を通じて,かつて林業のまちだったことを思い出すことにもなり,林業体験と木工体験,そして木質バイオマスで沸かしたホテル渓谷のラジウム温泉を組み合わせた,林業のまちならではのツアーをやろうというような構想も,町民の中から出てきているという。
21時過ぎ,トイレに立った参加者が,店の奥がすごいことになっていると,色めき立って戻ってきた。
店の奥には,昭和の雰囲気満点の異空間があった。
時代を感じさせる道内ゆかりの歌手の方々。三橋美智也や北島三郎の名前もあった。
御年87歳というマスターの坂川さん。滝上の盛衰をずっと見てきた方である。
滝上がシバザクラの観光ブームに沸いた頃の話をぼくとつと語っていたのが,妙に心に残った。そう昔のことではなく,昭和60年前後のことと思う。けっして大げさではなく,実際そうだったのだと思う。そして昔を懐かしんでいるのではなく,もう一度滝上を何とかしたいという熱い思いを感じた。
社長さんが1曲披露。
名残惜しいが,21時30分で宴はお開きとなり,ホテルの車が迎えに来た。
ホテルのフロントでは,「滝上町学校校歌集」という資料が販売されていたので購入した。滝上郷土史研究会が制作したもので,平成23年6月1日に限定100部のみ印刷されている。中には,かつて町内にあった14の学校の校歌の歌詞と楽譜,それにピアノ演奏のCDが収められていた。
滝上郷土史研究会は,廃校となった学校に記念碑を建立するなど,地道な活動を続けてきている。過疎化が進む中でも,こうした活動が続けられてきている理由はなんだろうか,これも今回のツアーで確認したかった疑問点の一つだ。
ホテルのロビーには小檜山博さん,加藤多一さん,陽殖園の高橋武市さんを紹介するコーナーがあった。三浦綾子さんのご主人,三浦光世さんも滝上の出身である。これらの方々の書かれたものを読んでみると,少年時代の滝上でのことが,その後の大きな影響を及ぼしているように思われる。やはり滝上という場所には,何かがあるようである。
それが何なのかは,今日のところはまだ思い当るところがなく,明日に課題を持ち越すこととした。
風呂に入った。木製チップで沸かしたラジウム温泉である。町のいろいろなところで,ここの温泉は山の木で沸かしていると言われたが,やっぱりちょっともったいないなと思った。もちろん石油はもったいないが,木も1本1本で見れば,何十年もかかって蓄えた炭素を一気に燃やしてしまうのだから,やっぱりもったいないのである。