三陸初日の出の旅

松島

12月30日。今晩は山形市に宿をとってあるので,途中下車しながらのんびりと山形まで向かおうと思う。とりあえず,松島と鳴子温泉には行っておきたい。
ということで,今日は主に宮城県の旅となる。宮城県は通過してしまうことが多く,これまで仙台七夕祭りや塩釜神社を見ただけであまり良い印象がないが,今日は少しゆっくりと宮城県を歩いてみようと思う。


フェリーターミナルから歩いて仙石線多賀城駅に到着。バスもあるが時間があれば歩いたほうが,いろいろ見れて楽しいものだ。ただこのあたりは車が激しく往来するだけで,別にどうということもなかった。


とりあえず「南東北ホリデーバス」を購入。今回の旅は青春18きっぷを使わず,ちょっと切符にこだわってみようと思う。多賀城駅の窓口に並んでこの切符を買うのに10分くらい待たされた。

10時12分多賀城発→10時17分本塩釜

仙石線の雰囲気は札幌の市電と似たものがあり,良く言えば庶民的,悪く言えば小汚い。都会だという感じはする。

松島は3月の旅行で塩釜の志波彦神社から眺めたが,これだけでは松島を見たことにはならないだろう。松島見物ならまず遊覧船に乗らなければ始まらないだろうと思って,本塩釜駅近くの遊覧船乗り場に向かった。


年末で旅行者も多い時期なので乗れるかどうか心配したが,乗船券は難なく買えた。


11時00分出航。2階のグリーン船室,グリーン甲板はプラス800円。別料金払ってまで2階に上がる人はいなかった。


途中何度もほかの遊覧船とすれ違った。肝心の景色のほうは正直言ってたいしたことなかった。日本三景とは誰が名づけたかわからないが,松島は日本三景の中でいちばんつまらないと思う。

12時00分松島到着。

これで「お前,松島は見たことがあるか」と言われた時には,「あります」と答えられるだろう。


観瀾亭。どういう由来があるのか知らないが,眺めの良いところに建つ茶室である。中に入ってよいのかどうかわからないので,とりあえず奥にある「松島博物館」を観覧した。吹きさらしの寒々しい建物で,もう何十年も展示替えしていない感じだった。北海道の伊達にも同様に吹きさらしの博物館があるが,伊達のほうが展示品もよっぽど立派だ。観瀾亭では松島湾を眺めながら抹茶をいただけるようだったが,風が猛烈に吹いていてそういう雰囲気ではなかった。北海道ではこういう畳敷きの部屋が年中外に開放されているということはありえない。

 
続いて瑞巌寺を参詣する。瑞巌寺は国宝や国重文が集まっており,松島を代表する見どころだ。しかし,拝観料が700円と高く,拝観券を右の写真のような自動販売機で買わされるのだから興ざめ。国宝とはいえ歴史の授業にも日本建築史の講義にも出てこなかったので,どういう由来があるのかわからない。
ただ立派だと思ったのは「金」本来の美しさを引き出していることだ。お寺の中は薄暗く,やたらに照明をつけていない。谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』という随筆を読んだことがあるが,昔偉い人の建物に金が好んで用いられたのは,人工照明がないため室内が暗く,薄暗い中で金が放つ幽玄な光が魅力的でありえたからだという。この陰翳という概念は北海道ではまず理解されることはなく,室内はどこでもギラギラに照明をつけて昼間のように明るくしなければ気がすまない人が多い。その点,ほのかな明るさの中で,昔の人が見たのと同じ金のきらめきを見ることができたのは良い経験だった。


国指定重要文化財・五大堂。松島の眺めが良かったかどうかは憶えていない。絵葉書的風景と言えるのかもしれないが,それなら美幌峠や摩周湖のほうが感動的だ。

日本三景というネームバリューだけで物価が2倍か3倍になってしまうのを宮島で経験しているので,昼飯は店に入らずセブンイレブンの弁当にした。弁当を持って松島レストハウスに入る。レストハウスといってもレストランはなく,遊覧船の待合所のようなところだから,さっき遊覧船でやってきた私にはここで休憩する権利があるはずだ。食べ終わったあとごみをもってうろうろしていると
「お客さん,そういうものを捨てるところはないんです」
と観光案内所の女性に言われた。幸い外にゴミ箱があるというので外に捨てに行ったが,あたかも迷惑そうに「そういうもの」という言い方はないだろう。はじめからゴミ箱は外にあると言ってくれればそれで済む話だ。道の駅などでゴミ箱が設置されていないのは仕方ないと思うが,鉄道旅行者にとってゴミ箱がないのは困る。その点,列車にも駅にもゴミ箱を設置しているJRは偉い。

松島ははじめから居心地の悪さを感じていたが,ゴミ箱のことで決定的に印象が悪くなった。ほんとはもっと長くいようと思っていたが,早々に退散することにした。


13時58分,歩いて東北本線・松島駅に到着。
「ありがとうございました またのお越しをお待ちしております 松島町」
わたしのために書いてくれているようだ。

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