古くは五箇山・白川郷経由で名古屋と金沢を結んでいたというJRバス名金線。
誰もいない車内。先ほどの加越能鉄道とはまるで異なるゆったりした乗り心地である。
華山温泉,川合田温泉と一軒宿の温泉が幽窓を過ぎていき,富山・石川県境をなだらかな峠で越える。
30分ほどで北陸本線森本駅に到着。寒々しい橋上駅の改札口に女性駅員が1人で立っていた。この近辺の駅では,何が何でも改札に女性係員を立たせるという姿勢が見える。
途中3本の特急列車に先を譲りつつ,ゆっくり進む普通列車。
小松駅に5分間停車,CHAOで駅弁を購入。
加賀温泉駅に10分間停車。
19時20分,紅白歌合戦が始まった。
19時43分,芦原温泉駅到着。温泉街までは5km弱ある。古くは国鉄三国線が温泉街まで通じていたというが,この時間ではタクシーに乗るよりほかない。
えちぜん鉄道,あわら湯のまち駅。誰もいない待合室では,老駅長が一人紅白歌合戦を見ながら,日本の未来はWow Wow Wow Wowと口ずさんでいた。猫は火の消えたストーブの傍らで年を越す。
セントピアあわら
芦原温泉は福井県を代表する温泉郷。日帰り入浴施設のセントピアあわらに向かうと,年末のため早じまいしていた。ホームページでは何も告知されていなかったのだが。
落胆して温泉街をさまよう。どの旅館も妙に格式張った閉鎖的な構えである。
たしかに,大つごもりの夜に温泉に入りに来る方も悪いが,このまま新年を迎えるのはあまりにも惨めだ。
あきらめかけていたところ,「ご入浴大歓迎」と看板を出した,心の広い温泉旅館が見つかった。
「少々混んでます」
と言われたが,混んでいるというほどでもない。しかし,湯船の奥には,機嫌の悪そうな老夫がどっかと座り,湯客ににらみをきかせている。おそらくいつもは自分たちだけなのに,今日は一見の客が多くて不愉快なのだろう。わたしも体を念入りに洗ってから,小さくなってお湯につかる。
泉質は薄い苦みのある食塩泉で,飲泉できる新鮮なお湯である。しかし子どもが騒がしく,洗い場の桶の湯を浴槽に入れるなどいたずらが過ぎる。ついに先の老夫が我慢できずに子どもを叱りつけた。
しかし,よくよく会話をきいていると,子どもは老夫のお孫さんのようである。まったく人騒がせな男である。
ともあれ望外によい温泉に入れたことに感謝の気持ちでいっぱいで,社長さんに心からありがとうございましたと御礼を言い,旅館をあとにする。
終電を前にして,あわら湯のまち駅の待合室は閉ざされていた。