近露は中学校のある大きな集落で,みかんの無人販売所などもあった。
家や店の玄関には,みかんと稲わらで作った簡素なしめ飾りが取り付けてあった。
店も2,3件あったが,瓦屋根の平屋で随分古いものだろう。この辺りは,古くは多くの旅籠が軒を連ねていたという。
花嫁衣裳,婚礼家具,結納,進物などの広告看板を多く見かけた。今も昔もあまり裕福な土地柄ではないように思うが,結婚式は一世一代のセレモニーとして盛大に行われたのだろう。
旧役場支所の箸折茶屋は,前に車が止まっていたので人がいるのかもしれないと思ったが,やはり年の瀬の旅人は歓迎されざる雰囲気を感じたので,素通りした。
近露王子跡。碑の文字は大本教祖,出口王仁三郎の筆によるという。
熊野古道の本通りから少し外れた場所にあったなかへち美術館は,改修工事が行われていた。建物は金沢の21世紀美術館と同じ,妹島和世・西沢立衛両氏による設計である。
結局,近露では食事を取ることも休むこともできず,一つ峠を越えて,道の駅「熊野古道中辺路」を目指すことにした。古道は平べったい石を敷き詰めた石畳の道となったが,また延々と上り坂が続いた。上りはそれほど足にこたえないが,下りのことを考えると思いやられる。
近露の集落を見渡す。山深い熊野にあっては貴重な緩傾斜地で,江戸時代の記録にも,まるで桃源郷のようだと書かれているものがあるという。
箸折峠の牛馬童子像と
大晦日も午後となった。道の駅には何か食べるものがあることを期待し,木漏れ日の道を降りていく。
道の駅熊野古道中辺路。
幸いにも道の駅は営業しており,食事コーナーもあった。
しかし,バスが来るまで20分しかないので,何か弁当のようなものはないかと探してみると,あるわあるわである。
まきずし,ちらしずし,めはり。
さんまずし,草もち,里もち,あわもち。
よもぎういろう,自然派クッキー。
こちらはこの場で食べるわけにはいかないが,もちあわ,もちきび,たかきび。
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全部食べたいところだが,そうもいかないので,めはり寿司とよもぎういろうを買った。
めはりというのはよく知らなかったが,高菜の浅漬けでくるんだおにぎりで,古道歩きにふさわしい素朴な味だった。
そして,体力を消耗したときには甘いものが良いと思って買ったういろうは最高だった。生ういろうは,3年前の旅行で,伊勢の虎屋のを食べて以来である。こういう素朴な味が,いまはなぜこれほど貴重なものになってしまったのだろう。
ここでの昼ごはんは,今回の旅行で最も幸せを感じるひと時であった。