北海観光節旅行記秋の湯殿山・尾瀬

5. 肘折温泉

国道沿いの地蔵倉登り口から往復30分余りで参拝を終えることができた。宿は18時までに入らなければならないので,あと13分しかない。

温泉街への車道はループ橋でぐるぐると回って降りていくが,地図によると近道の歩道があるはずだ。まずはそれらしい切り通しの枝道に入った。

「温泉街→600m」という道標があり,あと10分あるので順調にいけば間に合いそうだ。ところが矢印の指す方には,Y字型に2手の道があり,どちらかまったくわからない。とりあえず左へ進んだ。

途中には,お地蔵さんや,石だけの神社が点在していた。

急な細道を駆け下りる。

薬師神社。

温泉街が見えた。

薬師神社の登り口に出た。

火伏の神様,秋葉山。この御利益によって肘折温泉は江戸時代の中ごろから火事がなく,昔ながらの湯治場の姿を残しているという。

本日の宿は,薬師神社向かいの西本屋。神社に参拝したりして,結局5分の遅刻となった。

宿に着くと,どうやって来たのかと,まるでお化けでも現れたかのように驚かれた。15時のバスで来なかったので,次の19時のバスで来るものと思っていたとのことである。

インターネットで予約した際,宿からすぐ電話があって,15時のバスで着いた後,散策をして18時までには入ると伝えてあったはずである。それが伝わっていなかったのかどうかはどうでもよいが,バスで着いて即宿に入るのが当たり前だという観光客の現実を,非常に寂しく感じた。

宿には「四ヶ村の棚田」のカレンダーが貼ってあった。ならば,温泉に来る前に,棚田を散策しようという観光客がいたって良いではないか。棚田は少し遠くても,地蔵倉には寄る道して然るべきだ。

棚田や地蔵倉を見てきたので到着がこの時間になったのだと説明しても,宿の主人は唖然とするばかりだった。それは良いところを見ましたねと言ってくれる人,あるいは,あそこにはあれがありましたでしょうなどと言ってくれる人が欲しい。まったく寂しいことである。

それはともかく,御主人と奥さんは親切だし,旅館自体は良かった。通りに沿った廊下に部屋が並ぶ,映画に出てきそうなこの種の旅館には泊るのも初めてだ。

隣の部屋とふすま仕切りとのことだったが,けんどん式なので引いて開けることはできず,普通の個室だった。

まずは夕食に出かけるというと,主人はまた驚いて,この界隈に食べるところはないと言った。

食べるところがないということは,予約の際の電話で聞いていた。ただ,ないと言いながら,探せばけっこうあるというのはよくあることで,肘折温泉のホームページを見ても1,2軒は食事屋さんがありそうだったので,何とかなると思っていた。

ところが,ホームページに載っていたところは,めったに営業していないというのだ。

何はさておき,近くの食料品店がもうすぐ店を閉めるはずだから,今すぐ行ってカップラーメンでも買いなさいと,店先まで一緒に駆けて案内してくださった。

温泉街でたった1軒営業していたこのお土産屋さんは,下手なコンビニよりも食料品が充実しており,食パンもカビの生えていないちゃんとしたものがいくつも売っていた。まさに命拾いをした。

歓楽街的なビルもあったが,たしかに真っ暗だ。(肘折温泉のホームページによると夜は19時から営業とあり,このあと店を開けた可能性もある)

肘折温泉のことは,KIKIさんのブログで「ひじおりの灯」というイベントが紹介されていたので知った。2013年夏のことである。早速2014年の元日に泊まる予定を組んだのだが,予約した宿から元日は路線バスが運休すると知らされて取りやめることになり,ようやく今日訪問がかなったのである。

温泉街の象徴的存在となっている旧肘折郵便局。

体験イベントも盛んに行われている模様。

 

中小の宿屋が十数軒,目抜き通りに沿って並ぶ。大型温泉旅館はない。

枝道に入るとかなりひっそりしている。

みちくさという料理屋さんもやっていてなかった。宿のご主人によると,もっと遅い時間になれば店を開けるかもしれないとのことだった。

共同浴場の上ノ湯も18時までで既に営業を終えていた。ほかに,疝気湯という地域住民専用の共同浴場があった。

宿に戻り,夕食とする。食パン1袋とヨーグルトがあれば,明日の朝までは十分だ。

落ち着いた雰囲気の玄関ロビー。19時を過ぎたばかりだというのに,深夜のような静かさだ。たまに湯あみの人たちが挨拶をして通り過ぎていく。

  

ゆかたやタオルまですべて別料金という素朴な湯治宿であるが,随所に手が行き届いており,不足は何もない。

 

肘折関連の本のコーナーがあった。『山伏と僕』は肘折温泉を知る前に読んだことがあった。著者の坂本大三郎氏は,肘折カルデラサイダーのラベルをデザインしている。

グラフ山形では,肘折温泉のこけしを特集していた。肘折のこけしは東北地方で代表的な10系統のうちの一をなすという。

テレビでは,映画「男はつらいよ」をやっていた。映画の中の世界に入って映画を見ているような感覚だった。

温泉はもちろんよかった。貸し切り湯もあって,連れで泊まっている人などは,順番待ちで入っていた。

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