北海観光節旅行記釧路発鹿児島ゆき 列島縦断の旅

旅立ち

12月27日,この日わたしは26歳の誕生日を迎えた。しかしこの時期に生まれたものの宿命として誰に祝われることもなく,職場の大掃除をしていた。最後に社長が年末の挨拶で,「最良の幸せとは年末において年頭の自己よりも良くなったと感じること」と話していた。
うん。たしかに自分は成長したぞ,と思うが,仕事上は平々凡々とした何もない1年であった。何もないこと自体,大変幸せなことのはずだが,ほんとに幸せであるときには幸せを意識することがなく,実感として感じる幸せは悲しみ苦しみと表裏一体のものであったりする。
怖いほど 幸せ 月もきれいよ なぜだか 今夜は 寝るのが惜しいわ「月光価千金」
子供時代にはちょっとしたことがものすごい幸せに感じられて,心ときめいて眠れない夜もたまにあったが,もうそんな気持ちはしばらく経験していない。
ほれた仕事に命をかけて,散るも華だよ男なら「豪商一代紀伊国屋文左衛門」
そんな仕事もしてみたいものだ。

19時に帰宅し,これからいよいよ旅行プランの作成である。骨格だけは固まっていたのだが,具体的にはまだ煮詰めていないのだ。先週の3連休は東京に行っていたし,それからは年賀状書きに追われて,なかなか旅行プランを検討する時間も取れなかったのだ。
今回は完全にプランを決めてから出発しようと思う。ある程度知った土地ならその場で適当に動くこともできるが,今回はそういうわけにもいかない。また旅行の範囲が全国に及ぶので観光ガイドを持って行くわけにもいかず,事前に必要な情報だけを整理しておく必要がある。
そんなことで,準備しているうちに時刻は午前1時を過ぎてしまった。

 

時に,平成十四年十二月二十八日の朝まだき

いよいよ出発の朝を迎えた。駅まで歩いて行こうかと思ったが,1時間もかかるのでハイヤーを呼んでしまった。運賃1270円。


5時25分,釧路駅。まだ駅舎は施錠されていた。

5時30分,駅に入る。

釧路6:00発→滝川12:35着 普通列車 1両編成,キハ40-776

滝川までの308.4kmを6時間35分かけて走破するこの列車は,旅立ちにふさわしい列車だ。


5時50分,1番線に札幌からの特急まりもが到着。2番線は根室行き,3番線は網走行き,4番線では滝川行きの普通列車がそれぞれ乗り換えの客を待ち受ける。

旅装束に身を固め, 滝川行き普通列車に乗り込む


滝川行き普通列車は1両編成。1人1ボックスでボックスがだいたい埋まるくらいの混み具合だった。帰省シーズンということで,朝早いにもかかわらず,なかなかの盛況である。

怒涛逆巻く 嵐の中を, 目指すは遥か 薩摩の空, たった一両の 汽車が行く


厚内駅で下り列車と交換待ち。すがすがしい冷気にきりりと身が引き締まる。雪景色を照らす朝日が美しい。

たいてい厚内から浦幌まではがら空きとなるのだが,今日は乗車率25%程度を維持していた。帯広まで行く列車は,このあと4時間もないのだ。さらに普通列車のみで札幌に行く場合,この列車を逃すと札幌着が7時間以上も遅れてしまう。


池田にて陸別から来たふるさと銀河線の列車を連結する。

平均して月1回は札幌出張があるので,この線路はスーパーおおぞらで何度も通っているが,普通列車の車窓から見ると景色がまったく異なって見える。


帯広でふるさと銀河線の列車を切り離し,列車番号も変わって快速狩勝となる。

私の向かいの席にも浦幌以来何人かが座った。おじさんかおじいさんばかりだが,新得から40代くらいの男性が座った。その人とは富良野までずっとしゃべっていた。今シーズン初めて発売された「北海道東日本パス」を持っており,室蘭→(フェリー)→八戸→(急行はまなす)→苫小牧→追分→新夕張→新得とやってきたらしい。このあとは富良野線で旭川に向かい,特快きたみで網走へ行くらしい。本当に汽車旅が好きらしく,話しが合いそうだと思ったが,歯が抜けているためか言葉が聞き取りづらく,話しの内容の50%くらいしか理解ができないので,ただ向こうの言っていることにハアハアとうなずくだけだった。JRに対してやたらと不平不満の多い人だったのでどこまで信用していいのかわからないが,はやての全車指定席化,海峡線の全列車優等列車化によって,地元ではかなり混乱を巻き起こしているらしい。今回の旅行ではそのあたりを避けることにしてよかったと思った。


富良野着。5日後には帰省でまたやってくるはずだ。

写真を撮って列車に戻ると,周りを同じくらいの年頃の女性に囲まれていた。どういう集団なのかわからないが,インターネットか何かで知り合った富良野の農業青年たちに会いに来た帰りのようだった。大阪方面からわざわざ来たらしい。

芦別では2つ後ろのボックスに,ルンペン風の男が乗ってきた。そこにはわたしと同じく青春18きっぷで旅行している男性が座っていた。ルンペン風の男は話し好きで,大声で向かいの旅行者に話しかける。

「としいくつ?」 「36になります」
「いまみんな結婚遅いからねぇ。酒もタバコも吸わないの? まじめだねぇ」
「仕事探してるの?,えっ大学行ってるの?」

10年後の自分を見たような気がして怖かったが,何とかこうならないように頑張りたい。

芦別,赤平と停まるたびに家族連れが何組か降りて行く。ホームでは本家の人が出迎えている。心温まる光景だ。地方都市間はバスが充実しているが,例えば帯広から芦別や赤平に帰省する場合は鉄道を利用するしかない。そういう需要も結構あるのだ。


12時35分,滝川着。釧路からの6時間35分,乗ってみればあっという間だった。

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