北海観光節旅行記めざせ奥州,汽車旅千里

真山神社

道路に雪もないのにバスはチェーンをはいていた。乗り心地は悪いし,燃費も悪くなるだろう。運転手さんも気になっていたようで,途中のバス停でチェーンを外していた。

チェーン取り外しのため停車していたとき,隣に座っていた外国人の男性から「なまはげ館に行くにはどこで降りたらよいですか?」と尋ねられた。わたしもこれからなまはげ館に行く。地図を見せて,北浦というバス停で降りればよいが降りてもかなり歩かなければならないと教えてあげた。

わたしも正直自信がなかったので,北浦に着いたとき運転手さんに「なまはげ館はここがいちばん近いですよね」と確認し,外国人さんには4kmぐらいありますが大丈夫ですかと確認し,一緒に降りた。

道はよくわからなかったが,とりあえずこっちだろうと思うほうへ進む。しかし内心これは困ったことになったと思った。

少しずつ話しをしてみる。国は米国だそうで,男鹿に来るのは3回目だという。以前は広島や金沢に住んでいて日本海側を青春18きっぷで北上してやって来たそうだ。わたしも実は青春18きっぷなのです,と切符を見せると,「今年は赤くなったのですか!」と驚いた。
今は函館に住んでおり,男鹿には来やすくなったという。男鹿に来るのは年に1度の楽しみだという。

男鹿には何かあるのですかと問うと,最初に来たのはたまたまで,そのときの雪景色を見て惚れ込んだのだという。
やった!と思った。旅行に出る前は冬の男鹿にわざわざ行く価値はあるのだろうかと,何度も疑問に思ったのだが,男鹿とは一人の男をそこまで惚れ込ませるだけの場所なのだ。男鹿に来て正解だったと思った。

しかし彼は今年は雪が少なくて残念だと言った。わたしも同感だ。それにしても雪の男鹿が好きだとはずいぶん渋い趣味の人である。函館駅も新しい駅舎になったが,「僕は古い駅舎が良かった」としみじみ言っていた。渋い。


「押し売り・催眠商法禁止区域」。彼は看板の字を読んで,「初めて見ました」と言った。わたしも初めてだったが,それより彼がこの字をすらすらと読み,意味を理解したのに驚いた。これはただものではない。聞いてみると,大学で日本文学を研究しており,日本に留学していたのだとか。やはり。


なまはげラインと交差。なまはげ館まであと2km。

万体仏

「神社には興味ありませんか?」と尋ねると,「あります」とのことだったので,彼と一緒に上ってみた。


菅江真澄の本にも登場するお堂である。さっき「神社」と言ったが,実は仏様だった。神様と仏様を間違うとは日本人として恥ずかしい。しかし神も仏も同時に信仰する日本人の心理は外国人には理解不能であろう。


彼に「なぜ白いものを巻いているのですか?」と尋ねられた。「仏様が寒いからでしょう」と答えたが本当だろうか。

歩き始めて約50分,ようやく真山神社の鳥居が見えてきた。

なまはげ館

なまはげは大晦日に市内の各集落で行われる。

なまはげという行事は小学校の頃から教育テレビで見て知っていたが,あまり好きなものではない。わざと意地悪をして子供をわんわん泣かせるなんて,どうしてあんなにかわいそうなことをするのだろうかと思う。わたしがこの町の子供だったらグレていたかもしれない。

約50分間見学し,最後に彼と名刺を交換した。出口のところで「お願いがあるのですが,写真を撮ってもらえませんか」と言われたので,角が2本の雌鬼の隣に彼が立ったところを写真に撮る。

「みんな『いつになったら彼女ができるの?』って聞くんで,(鬼と並んで写った写真を見せて)『やっと彼女ができました』って言ってやるんだ」

彼はさらりと言った。かっこいい。そして何か非常に共感するものがあって涙が出てきそうである。

「今日はどうもありがとうございました,あなたがいなければここまで来れなかった」

こんなわたしでも少しは彼のお役に立てたことを嬉しく思う。彼とはここで握手をして別れた。

彼は男鹿温泉に泊まるそうで,7kmの道のりを歩いて行った。

真山神社


わたしとしてはどちらかといえばこちらのほうが楽しみだった。旧県社,荘厳な古社である。


本殿の脇に立派な石段があったので上ってみる。息を切らせて急な段を200mほど上ると真山神社五社殿があった。太い杉に囲まれた参道はすごい。しかし登りは良いが,薄ら雪の積もった石段を降りるのは難儀だった。


昨年の旅行の反省から,神社仏閣を参詣したら何かを買おうと思っていたので,なまはげの一刀彫りを求めた。初穂料2000円。

真山神社をあとにする。雨が降ってきた。冬の旅行なので傘は持ってこなかったが,考えてみたらこちらは最高気温がプラスになるので雨が降ってもおかしくないのだ。情けないぞえ,道中時雨。

 

10分ほど歩いてバス停でしばし雨宿り。このあたりは各所に「菅江真澄の道」の標柱が見られた。菅江真澄の本もいつか読んでみたいものだ。

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