北海観光節小さな旅行記旭川〜占冠・初夏のイベント巡り

旭川〜占冠・初夏のイベント巡り その3

19時,湯の沢温泉に到着。

6月から9月いっぱい改修のため休業し,10月から入浴,レストラン,宿泊の営業が再開される予定となっている。改修工事の設計は新築工事時の設計者である中原建築設計事務所が請け負っており,当初設計時のコンセプトを活かしつつのリニューアルがどのようなものになるか楽しみである。

 

熊の口から湧き出す温泉や,珍しい脱衣所の男女共用洗面室は,改修工事によって失われるらしい。

懇親会の食事は,今日採った山菜で作ることになった。

参加者の中に,本職のシェフが2人おり,素晴らしいご馳走を用意していただけた。

21時半,懇親会のはじまり。10名が参加。占冠2名,南富良野1名,岩見沢1名,美唄1名,札幌4名,旭川1名という顔ぶれで,たしかによそ者の多い集いではある。

採れたてのフキの煮物。やはり採れたては香りが違う。

山菜焼きそば,肉は鹿。これは絶品。

 

山菜チヂミと採れたて山わさびの揚げ豆腐。

しかのたたきも,シェフの手にかかると,いつもとはまた違う感じ。これが3皿もあって,大変贅沢なもの。

ほかにも持ち寄り料理の数々。


細谷さんには,湯の沢温泉の今後のことも聞いた。アウトドア事業者が温泉施設を運営するという例はあまりなく,今後の企画が楽しみである。

経費的には,年間に給湯と暖房で60,000Lもの石油を消費しているそうで,やはり源泉温度が約10℃と冷たい鉱泉のため燃料代が大きな負担になっているようである。バイオマスボイラーも導入の検討を始めたところだが,実現に向けて課題は多いという。

たまたま,私もこの1年ほどの間に,下川町の五味温泉と滝上町のホテル渓谷のチップボイラーを見学する機会を得た。それぞれかつて営林署を2つ有した林業の町にあり,暖房のほか浴用の加温に大量のエネルギーを使用しているという点で,湯の沢温泉と状況がよく似ている。しかし,どちらの施設も,チップには製材工場の副産物を活用することで,経済的メリットを見出している。木質バイオマスをそれだけのために集めてくるのでは,化石燃料に対して価格競争力を持たないというのが現状である。占冠の場合,製材業が壊滅的状況なので,木工場を再興するところから始めなければならない。

占冠には木がたくさんあるからといって,そう簡単にはいかないのである。

下川町五味温泉チップサイロ たきのうえホテル渓谷チップサイロ

ちなみに,60,000Lの石油を,チップに置き換えるとしたら,どれだけの森が必要になるであろうか。

熱量に換算すると,60,000L×39.1MJ/L(A重油単位発熱量)=2,346,000MJ/年となる。

チップの重量含水率を0.35と仮定すると(文献1,p.24),低位発熱量は11MJ/kg-wet(文献1,p.86)であるから,必要な木材の量は,

2,346,000MJ/年÷11MJ/kg-wet=213,272kg-wet/年(=213t-wet/年)

となる。五味温泉が年間240tのチップ利用で重油を106,000L削減,ホテル渓谷が年間300tのチップ利用で重油を90,000L削減しているというから,それほど外れていない数字だろう。

ここで,木材の密度を500kg-wet/m3として材積に換算すると,213,272kg-wet/年÷500kg-wet/m3=427m3/年となる。

森林を伐採したときに,エネルギー源として使用される木材の割合は,林地残材が活用されるようになれば20%くらいまで行くかもしれないが,現状ではせいぜい10%程度である(文献2,p.65)。したがって,427m3/年の燃料用チップを得るためには,10倍の4,270m3/年の伐採が必要である。

一方,森林の成長量は,樹種をトドマツ,地位指数3(占冠村),伐期60年,粗密度7と想定すると,樹齢60年における材の蓄積量は242m3/haであり(「森林調査簿における蓄積及び樹高等の取扱い」による),大雑把に1年あたりの成長量にすると242m3/ha÷60年=約4m3/ha・年となる(これは気象条件や間伐の仕方などによって倍にも半分にもなる数値である)

よって,4,270m3/年の伐採を毎年持続的に行っていくためには,4,270m3/年÷4m3/ha・年=1,068haの森林が必要になる。

ここで1つの問題は,占冠の場合,人工林のうち国有林が圧倒的に多くを占めているということがある。人工林に占める国有林比率の全道平均が44%という中にあって,占冠,下川,滝上ともとりわけ国有林比率の高い町村であるが,下川町の場合,計画的に町が国有林を買い取って町有林を増やしてきたという経緯があり,町有林の中である程度計画的に森林資源の循環利用を行っている。しかし占冠の場合,村有林は912haに過ぎず,村有林だけでは湯の沢温泉の熱源すら賄えない計算となる。

別の問題として,副産物としてのチップを得るには,前述のとおり主産物としての製材業が近場に立地していなければならない。木材生産量の50%が建築用材(ボード類を含む)になるとして(現状はそこまで高くないが,歩留りを考慮すると50%程度が最大であり,そこを目指さないと経済的に回らない),木造住宅1軒当たりの木材使用量は25m3程度であるから,4,270m3/年×0.5÷25m3/軒=85軒/年の住宅に建築用材を供給する木工場がないと,十分な燃料用チップは供給されないことになる。

それ以前の問題として,主力樹種のトドマツは現状,ほとんど建築用材として使用されていないということがある。強度的な問題から,今後もメインの建築用材にはならないであろう。建築用でなければ原木価格が安いので,切っても利益が上がらない。だから,切らずに放置されているというのが現状である。

別の見方をすると,湯の沢温泉で使用している2,346,000MJ/年という暖房給湯用エネルギーは,北海道の住宅約50軒分の暖房給湯用エネルギー消費量に相当する(文献3,p.42)。もっとも本来公衆浴場というのは共有の富であり,1件ごとに風呂を沸かすよりも効率が良いから昔から銭湯が存在したのだろうが,湯の沢温泉がそれだけのエネルギーを投入する価値のある施設かどうかということは,これから問われることになるだろう。

文献1 Bruno Holenstein編著,スイス-日本エネルギー・エコロジー交流会翻訳編集:木のエネルギーハンドブック,岩手・木質バイオマス研究会,2006.3
文献2 日本エネルギー学会:バイオマスハンドブック,オーム社,2002.9
文献3 住環境計画研究所:家庭用エネルギーハンドブック(2009年版),省エネルギーセンター,2009.2


今夜は占冠市街の遊季館に宿をとったので,23時で席を外させていただき,トマムに宿泊する参加者の方に市街まで送っていただいた。

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