北海観光節旅行記小さな旅行記 2005.6.26

SHINTOKU空想の森映画祭の旅 その1

2005年6月26日

北海道一の山奥がニニウならば,日本一の山奥はタイマグラであると言って異論を差しはさむ余地はないだろう。ただしここでいう山奥とは,山岳や人の住まない秘境のことではなく,人が住んでいる(いた)山奥である。ニニウに惹かれた人間がタイマグラに惹かれていくのは当然の成り行きであり,私は昨年実際にタイマグラを訪れた

折りしも,タイマグラに残った最後の開拓農家を追ったドキュメンタリー映画「タイマグラばあちゃん」が昨年制作され,このたび新得町で開催される第10回SHINTOKU空想の森映画祭で上映されるとのことで,見に出かけることにした。

今年で発売10周年を迎えた一日散歩きっぷ。大学入学と同時に登場し,実家への帰省などでずいぶんお世話になった。この4年は釧路にいたのであまり利用する機会がなかったが,数えてみると今回で45回目の利用である。

琴似5:52発→札幌5:58着 函館本線 新千歳空港行き普通列車

札幌6:05発→滝川8:00着 函館本線 旭川行き普通列車

旭川直通の普通列車がほとんどなくなった今も,この列車だけは変わらぬ姿で走り続けている。苗穂工場から旭川への車両回送という役割を持っているため,気動車のまま走り続けているのだという。

初めてこの列車に乗ったのは進学で札幌に出てきて3回目の帰省の時だった。1995年の5月連休,最初に帰省したときは北海道中央バスの「高速ふらの号」を使った。石勝線の開通によりメインルートからはずされた根室本線は,富良野においてももはや交通機関として認識されておらず,札幌〜富良野間の移動にはバスを使うのが常識だった。常識人を目指す私としては迷うことなくバスを選んだのであった。

翌月,2度目の帰省では友人の勧めもあって一日散歩きっぷを使って列車で帰省した。このときは札幌6時59分発の滝川行き普通列車に乗った。6時の列車は常識からすれば朝早すぎであり,親にいらぬ心配をかけぬためにも1本遅らせたのである。

それでもだんだんと度胸がついて3度目で初めてこの6時の列車に乗った。この列車に乗れば上富良野の実家に10時半に着き,最終列車で帰ることにすれば実家に19時過ぎまでいることができる。しかも一日散歩きっぷを使えば片道分の費用で行って帰ってこられる。この方法で学生時代の6年間何度となく帰省した。上富良野まで普通列車で日帰りするというと変わり者のように見られたが,これがいちばんうまいやり方だと思う。

滝川で根室本線の列車に乗り換え。滝川駅は何ともいえぬローカルな雰囲気が漂い,乗り換えで降りるたびに心がいやされる。ただ,ホームの洗面所が撤去されていたのは少々寂しかった。

公共交通機関で札幌から芦別や富良野に行く場合,時間的には鉄道が有利で料金的にも大差ないにもかかわらず,大多数の人は高速バスを利用する。それには,根室本線の存在が知られていないということのほかに,滝川での乗り換えが大きな壁になっているようである。列車に乗り慣れない人たちにとって「乗り換え」は「面倒」で「不安」なことであり,絶対に避けたいことようであるが,私は乗り換えこそが旅の醍醐味だと思う。

例えば,タバコを吸う人にとって禁煙の狭苦しいバスに閉じこめられるのは苦痛ではないだろうか。それならば乗り換えで新鮮な空気に触れて一服できる列車のほうが気持ちよいと思うだが,それでもなお列車を嫌うというのは,どういう理屈であろうか。

滝川8:05発→富良野9:08着 根室本線 富良野行き快速列車

さきほど乗った普通列車は,かつて滝川駅で旭川行き始発特急の通過待ちをしていた。したがって,特急よりも普通列車が早く滝川駅に着いたので,この富良野行き快速列車では確実にボックス席を確保することができた。ところが1998年3月のダイヤ改正で旭川行き始発特急の時刻が繰り上がり,茶志内で通過待ちをすることになったため,特急が先に滝川に到着することになった。以来,普通列車から乗り換えるとたいていロングシートに回されることになってしまった。特急のほうが接続条件がよいのは考えてみれば当然だが,この列車は一日散歩きっぷ利用者に人気のある列車であるだけに少々残念である。

一両編成の快速列車はかつて優等列車や石炭列車で賑わった幹線を快調に飛ばしていく。

ところで,世の中には特急列車しか交通機関として認識していない人が大勢いる。そもそもこのような1両編成のディーゼルカーが走っている線路があるということ自体知らない人が多いし,知っている人であっても普通列車独特の直角の椅子には拒絶反応を示すのだ。

そういう人たちもなぜかバスには抵抗がないようなのだが,バスの身動きできない窮屈な座席に比べれば,たとえ椅子が直角であっても車内を動いて回れる列車のほうが環境はよいといえるのではないだろうか。

乗客の表情を比べてみても,バスの乗客はたいてい精気を失ったような顔をしており,ただ苦痛に耐えて乗っているようにみえる。一方で,列車の乗客は仲間同士向き合って歓談したり,本を読んだり景色を見たり,みなそれぞれ優雅な時間を過ごしているように見える。列車の車窓から空知川が見えたり,長いトンネルを抜けて別世界のような富良野の景色が現れたときには車内が歓声に包まれることがあるが,バスでそのような歓声を聞くことはない。どう考えても列車のほうが乗り物として優れているように思うのだが,なぜこれほど嫌われるのだろうか。


不満めいた話が続いてしまったが,実際,鉄道,特に滝川〜富良野の根室本線の列車を利用することに対しては,差別的ともいえる偏見をこの10年間ずっと感じてきた。しかし,列車にはおかしな人しか乗っていないのかといえばそんなことはなく,教養のある人,心のある人は列車を選ぶのである。むしろ「いまどき鉄道なんてそんなもの……」などという人こそ,日々の生活にあくせくし,楽しみは酒を飲むことしかないようなかわいそうな人たちなのではないか。そういう人たちのことを常識人と呼ぶならば,常識人になる必要などない。

富良野9:15発→新得10:44着 根室本線 快速狩勝

かつては滝川からの列車と旭川からの列車が富良野で連結されて帯広に向かっていたが,1997年3月のダイヤ改正で滝川発が富良野止まりとなり,旭川からの車両が150形に置き換えられて単行で帯広を目指すようになった。このため滝川方面から来た場合によい席の確保が難しくなったのは残念である。

ロングシートに座ると,隣に女子高生の2人連れがやってきた。今日は初めて山部の友人の家に遊びに行くらしい。富良野生まれの富良野育ちらしいのだが,話を聞いているとかなりパッパラパーだ。

「この川,空知川? 空知川って富良野にもあるよね。流れてきたらここまで来るの?」

逆である。布部から富良野に向かって流れているのである。札幌の人は札幌以外の北海道を知らず,旭川の人は旭川のことしか知らないが,富良野市の人も富良野市以外の富良野のことを知らないのである。したがって,富良野市の人にラベンダーや丘のことを聞いても,まったくとんちんかんな答えが返ってくることがあるので注意が必要である。

布部駅を見て,「ぼろいね」

あの駅舎を見て,情緒を感じるにはまだいくつか年齢を重ねることが必要だろうか。

しかしながら感心することもあった。布部駅では「何で何本も線路があるの?」と不思議がっていた。そういうことを気にするのは鉄道マニアだけかと思ったが,女子高生も同じことを考えるのだ。そして,山を見て「すごい,すごい」としきりに感激していた。その山というのは芦別岳ではなくて線路の東側に続く低い小山である。大雪山や夕張山地の神々しい山岳ではなく,里山のような濃い緑の山は私も大好きなのだが,こういう山を見て感激するセンスを持っているとは,富良野の高校生も捨てたものではない。


本日のかなやま湖

落合を過ぎると車内前方にカメラを持った乗客が集まってきた。鹿でも見に来たのかと思ったが,トンネルに入っても離れないところを見ると鉄道ファンのようだ。広内信号場で特急と行き交ったときには車内はシャッター音の嵐となり,それにつられたのか奥様方まで携帯電話の写真機で信号場の建物などを撮っていた。この列車で狩勝越えをするのは久しぶりだが,いつの間にこんなにマニアが多くなったのだろうか。

新得到着。映画祭開催中とはいっても駅前に立て看板が1つあっただけで,駅にはチラシも何もなかった。とりあえず,立ち食いそばで月見そばを食べておく。

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