バスは道の駅で小休止し,今度は双珠別へ向かった。双珠別は国道沿いの小学校跡までは何度も行ったことがあるが,そこから上流は初めてで,今回のツアーで訪れるのを楽しみにしていたところである。
国道から双珠別川に沿って折れると,間もなく左手に福珠橋という新しい橋が見えた。この橋ができる前はどんな橋が架かっていたのかと聞いてみると,村の観光ポスターにもなっていたあの吊り橋だそうで,写真に映っていた老夫婦はいまも健在だという。
双珠別は明るい雰囲気の沢で,国道の分岐から約5kmにわたって農家が点々と続いていた。どの家も庭をきれいに花で飾っており,村内でも比較的豊かな集落であることが知れた。
見返り橋で人家は途切れ,双珠別林道に入った。
名勝二番滝。ダムで水量が減り,昔ほどの迫力はなくなったという。ソーシュベツは滝のたくさんある川という意味で,かつては一番滝から五番滝まであったという。
水量が減ったとはいえ,秘境双珠別と呼ぶにふさわしい幽谷が続く。
林道を延々15分走り,ダムサイトのゲートに到着した。
昭和36年竣工の双珠別ダム。
北海道電力が管理するダムで,鵡川にありながら隣接する一級河川沙流川の調整池の役目を果たしている。というのは,日勝峠に近い沙流川のウエンザルダムから4kmの導水トンネルで取水し,今度は双珠別ダムから10kmの導水トンネルを経て日高の右左府発電所へ送水するという大変なことをやっているのである。
そして地図を見る限り,右左府発電所でつくられた電力が占冠市街に供給されている。我々が使っている電気がどこで作られているのか意識する機会はあまりないが,川の役割としてこういうこともきちんと知っておく必要があると思う。
16時20分,旧双珠別小学校の双民館にて休憩をとり,ケーキをいただいた。このケーキは,近日占冠にオープンするパン屋さん「まあらあのくばん」のマスターが作ってくださったものである。今年3月の鬼峠フォーラムで「パン屋さんのある町に住む人がうらやましい」という占冠の方の言葉を印象深く聞いたが,それから半年後に村にパン屋さんができることになったとは本当に驚いた。
古老によると占冠にも戦前はケーキ屋らしき店が存在したというが,およそ本格的なパン屋ができるのは開基以来初めてのことらしい。量産された食パンや菓子パンは一般の商店でも買うことができるが,それとは別にパン屋さんがあるというのは生活に大きな潤いを与えてくれるものだと思う。