16時40分「黒板五郎の流儀」ツアーのバスが迎えに来てくれた。ガイドの野村さんも最後まで,きっちりと案内してくれた。日帰りで9500円というのはやや高いと思ったが,その値は十分にあったツアーだった。
バスで新富良野プリンスホテルへ。
講演会までまだしばらく時間があった。小腹が空いてきたのでパンでも食べたいと思っていると,ちょうどパン屋があったので,ここで一休みした。
薄暮の時間がいちばんきれいなニングルテラス。なんだか一人でいるのがもったいないような気がしてきたが,「北の国から」30周年という大事な時を,だれにも邪魔されることなく迎えたいという思いもあった。
そしていよいよ講演会。会場は新富良野プリンスホテルのメインバンケットホールで,ホワイエには「北の国から」パネルコーナーが常設されている。
昨年の12月には,従弟がここで結婚式を挙げた。その時,祖父がかなり痩せているのが気になったが,翌月,「風のガーデン」の主人公と同じ病気であるとわかり,8月,他界した。
9月17日に演劇工場行われた「名場面映像&記念トークライブ」は,無料とあってか早々に定員をオーバーして抽選になったようだが,今日の講演会は比較的遅くまで空きがあって申し込むことができた。
富良野塾OBの女優,森上千絵氏の司会により講演会が始まった。「今日は北の国からの誕生日です」と紹介があった。
倉本先生登壇。富良野に来たのは35年前。当時,プリンスホテルが建った直後で,森を切ってゴルフ場にしている最中だったこと,石勝線の開通を控え,特急廃止の反対運動が起ころうとしていた,というような時代背景から講演が始まった。そして,国民学校時代,学童疎開の話,大学受験の浪人中にのめりこんだという芝居創りの話へと進んだ。
後半は森と水の話,環境の話へと移った。富良野塾を初めて1年目,井戸の水が枯れるという出来事があった。その年,布礼別一帯で水枯れが起きており,調べてみると上流にあるベベルイの森が皆伐されていたことがわかった。そこから森と水の関係にのめりこんでいったという。森は木材としてできなく,酸素と水を作るために必要なのだということを強調していた。先ほど見た富良野自然塾の植林活動には,そうした富良野に来て以来の実体験に基づく強い思いが込められていたのだ。
印象的な話として,原発に対する世代間の意識の違いがあった。倉本先生は「少し昔に戻る」発想が必要という考えをお持ちのようだったが,4月に京都の宮津市で講演を行った際に聴衆に尋ねたところ,一般の人は90%が昔に還ることを選んだ一方,高校生の70%が原発を選んだという。北海道で行った講演でも,教育大の学生は100%が原発を覚悟することを選んだ一方,コープさっぽろの会員を対象にした講演会では100%が昔に戻ることもありうるとしたという。私はこのところ学生との接点がないが,本当なのだろうかと思った。
19時22分,講演終了。
テーブルのグラスに「北の国から」放映30周年記念ふらのワインが注がれ,19時30分,能登市長の挨拶と乾杯によりパーティーが始まった。
倉本先生も来賓席のテーブルに着かれていたが,一般の参加者との写真撮影や会話には応じられない旨,あらかじめ司会者からアナウンスがあった。
会費が10000円ということで,料理にはあまり期待していなかったが,実に立派なものだった。ホテルも採算度外視でやっているのだろう。飲み物は協賛のサッポロビールとふらのワインから提供されたものだと紹介があった。
参加者も本当に好きな人たちだけが集まって,30周年の記念すべき時間を共有しようという,良い雰囲気だった。
円卓には見ず知らずの10人が向かい合って座っていたので,私も積極的に話しかけてみた。
右隣には横浜から来たという母子が参加していた。10年前,子育てが終わってから「北の国から」をビデオで見てはまってしまい,以来母親を連れて毎年ラベンダーの時期に富良野を訪れているという。
左隣の人は転勤で2年前に札幌に来て,北海道を知るために「北の国から」のDVDを見たところ,はまってしまったという。意外と新しいファンが多い。
その隣は,ややマニアックと思われる青年の2人連れだった。ためしにマニアな話を振ってみると,ロケ地に関してはかなり誤った情報を持っていた。「子供がまだ食ってる途中でしょうが」のラーメン屋が,当時まだ存在しない「とみ川」だというとんでもないデマまで聞いた。たしかに「北の国から」放映30周年記念商品として「子供がまだ食ってる途中でしょうがラーメン」を売り出しているのはとみ川ではある。
あと同じテーブルだったのは,東京の人,金沢の人など。わざわざ飛行機代をかけてくるのだから,みな,恐らく相当のファンだろうと思う。会場全体を見渡すと,おおむね参加者の年齢は30代以上で,男女ほぼ同数と,ファン層の広さを感じた。
ファンとはいえマニア風ではなく,身なりもきちんとした上品そうな人が多かったが,なぜか1人で参加している人が多かった。連れで参加している人は意外と少なかった。みんな独り者?と不審に思ったが,多くの人は家族を部屋に置いて,一人だけ講演会に参加していることが後でわかった。夫婦で「北の国から」ファンというのは実は稀有なことなのかもしれない。
終盤の20時40分,サプライズゲストで,「北の国から」のテーマ音楽を担当しているアコースティック・ギタリストの坂元昭二氏が登場。トークを交えながら,「メインテーマ」「純のテーマ」「五郎のテーマ」「シュウのテーマ」「結のテーマ」「不安のテータ」「ダイヤモンドダスト」と演奏してくださった。
坂元氏のギター演奏で,様々なドラマの場面が思い出され,感動的な雰囲気に会場がつつまれた中で,宴の終了となった。
締め挨拶はふらの観光協会の黒岩会長。最後は恒例の「富良野締め」。富良野締めというのは,一本締め(関東一本締めではなく本来の一本締め)の調子で,人差し指1本から始めて5本の指になるまで5回繰り返すものである。
参加者全員に贈られた「森のろうそく屋」特製のランタンキャンドル。
余韻に浸りながら会場を後にする。
さて,あと1時間足らずで,30年前に「北の国から」の放送が始まった22時になる。
この記念すべき時間を,どのようにして迎えるか。
先ほどサプライズゲストで登場した坂元昭二さんは,へそ歓楽街にあるスナック啄木鳥に場所を移して,22時から記念のライブを行うという。
私は布部駅に行ってみることにした。
21時半過ぎ,新富良野プリンスホテルをハイヤーで発ち,21時50分,布部駅到着。
ファンが集まり,カウントダウン,というような光景を想像してみたが,布部駅には誰もいなかった。
一人だけで,ひっそりとその時を迎えた。
これで,「北の国から」30周年の記念イベントは終わり。布部駅から列車に乗って,明日の石勝線30周年ツアーの出発地である新得駅へと向かった。
本日の宿は,新得の宮城屋旅館。