次のセミナーの会場は,星野リゾートトマム内のレストラン・アプリコ。ヨーロッパ調の趣深い玄関から入る。
内部。
セミナー会場。
山脇先生の講演の前段で,4年連続参加の森岡君が,「近自然学の社会問題への利用」と題して発表してくれた。
続いて山脇先生の基調講演。「近自然」による災害に強いまちづくりという視点から,近自然学のエッセンスを紹介があった後,占冠村の将来についての提言をしていただけた。
その中で,林業の再生と木質バイオマスの熱源利用についてやや詳しい話があった。
この4年間,森と海のつながりをテーマにワークショップ,セミナーを続けてきているものの,森と人間との関連では,鹿や川魚,山菜などしかテーマになっておらず,木材資源としての森林はまったく無視されている。これはたぶん,興味がないとか,森林伐採に反対しているとかいうことではなく,市民活動レベルではどうすることもできない重たい問題であるからだと思う。
しかし,占冠はもともと林業の村であり,いま住んでいる1000人余りの人口は,林業が繁栄した時代の名残だといって過言ではない。山脇先生がおっしゃるように,林業に正面から取り組まずして,本当に持続的なむらづくりはできないと思う。
占冠村では林業の全国的先進地である下川町との交流を最近深めていると聞く。今回も下川町からNPO法人森の生活代表の奈須憲一郎氏ほか数名の参加者があった。ただ,下川町では長い年月をかけて町有林を計画的に整備し,町や森林組合の強力なリーダーシップのもとで林業を核として地域が回っているところがあって,占冠村が下川と同じ方向を目指して成功するかといえば,難しい面があるように思う。
林業のための森づくりもやはり市民活動レベルからの積み上げが必要である。山脇先生は,針葉樹の単相林ではなく,針広混交林の「陽光林」を提案されていた。陽光林から育った分だけを収穫し,製材だけではなく,集成材,チップといった多段階利用,またいままで利用価値のなかった腐朽しかけた部分も工芸品としてデザインして売っていくことにより,持続的な収益が得られるという。
恐らく,国や道も,山脇先生の言う「陽光林」を否定しているわけではなく,明確な方針のないまま,人工林が人工林としてそのまま更新されているだけである。少なくとも現在は,戦後の一時期のように,天然林を伐採して針葉樹の単相林を拡大していくというような方向にはない。それだけに,地域の森をどうしていくかということは,市民レベルから声を上げていくべきだろう。
質疑応答の中で,「占冠はマイナス30度を超える寒い地域だが,生き延びやすい環境づくりをコンセプトにしている近自然学の中では,寒さの中で生きることに対してどういうとらえ方をしているか」という趣旨の質問があった。これに対して,山脇先生はアイヌの文化が参考になると答えられていたが,この問いについては参加者の中でも百家争鳴状態で,このあとの交流会でも自分はこう思うという主張を述べていた参加者が何人かいたのは頼もしいことだった。
続いて,星野リゾートトマムで広報を担当されている山岸奈津子氏から「雲海の共同研究とアイスビレッジの雪氷文化」について報告があった。トマムリゾートの方から,改めてこうしてお話を聞くのは初めてのことで貴重である。
トマムリゾートもいろいろ言われてはいるが,年々少しずつではあるが,集客数を伸ばしているそうで,建設後20年を経過した施設の大規模改修も着々と進んでいる。今年は札幌・千歳方面から道東道がつながり,かなりの入込が期待されるであろう。
ここ数年,最もトマムで注目を集めているのは雲海テラスであるが,トマムの雲海はほかと違うということを知ってもらいたいという思いから,今年の4月に北大環境科学院との連携協定を結ぶに至ったそうである。今回のセミナーには北大環境科学院からの参加者も数名あった。リゾートの取り組みが根付くには,地域との結びつきも不可欠であり,村との連携のあり方も模索しているところだという。
トマムでは今年から「とまたつ」というフリーペーパーの刊行が始まった。10月1日発行の第4号では,近自然セミナーに合わせて「水を巡る旅」が特集され,リゾートの水がどこからきているか,どこで処理されているかというような記事も載っていた。創業当初のトマムリゾートは高級リゾート志向で,ローカルな要素は一切排除されたというが,1994年に創刊されたフリーペーパー「苫鵡の達人」が,現地発の地域情報をリゾート内に吹き込んだ嚆矢だった。その後,経営主体の変更が相次いだ混乱期を経て,今年「苫鵡の達人」が「とまたつ」として復刊し,近自然セミナーがリゾートを会場として開催されたのは意義深いものがある。
主催者であるしむかっぷふるさとふっつくふくらむ協議会会長の山本敬介さんが,仕事で遅れて到着された。第1回の近自然セミナーが占冠村で開催されたとき,ここまでくるのに時間がかかった,占冠にようやく近自然セミナーを開催できる土壌ができたという趣旨のことを山本さんはおっしゃっていたが,いまや山本さん不在の中でも,セミナーがここまで回ってしまうのはすごいことだと思った。
次は荒木奈津子さんの報告「しむかっぷのエゾシカ資源循環の今後」。荒木さんは昨年の11月から地域おこし協力隊員として占冠村に移住し,専門の研究分野を生かして,エゾシカ対策に取り組まれている。
占冠の場合,農地の多くが牧草地で被害額が畑作地ほどには大きくないことから,防護柵による鹿対策は費用対効果が小さく,対策の手段としては捕獲に頼らざるを得ないという。被害を防ぐため,一定数の鹿を毎年捕獲しなければならないことについてはコンセンサスが得られているようであるが,持続的に捕獲できる頭数が何頭であるか,それとどう捕獲してどう処理するかについてはまだ課題が多いようであった。
占冠村内で持続可能に捕獲可能な頭数として,いちおう300頭という数字が紹介された。鹿肉を積極的に食べましょうというが,仮に村民全員が鹿を食べるとして,1人に割り当てられる鹿は4年に1頭ということになる。鹿が増えているとはいえ,本当に食料として持続的に利用しようとすれば,鹿もやはり貴重な資源である。
今年の10月8日から14日にかけて,マウンテンバイクとラフティング,カヌーで,全長135kmの鵡川を源流から河口までたどるツアーが開催された。その模様のビデオによる報告があった。鵡川は福山〜富内の道道がこの数年来通行止めで,ラフティンクが川沿いに下る唯一の手段となっている。ニニウではサケの遡上が見られたという報告があった。穂別ダムによる水の濁りや下流部の頭首工についても,報告の中で紹介された。ツアーは来年も実施する予定だという。
18時30分,本日のセミナーが終了し,交流会場のザ・タワーに向かった。
宿泊もザ・タワーなので,まずはチェックインした。トマムに宿泊するのは初めてである。エレベーターは全階共用だったが,加減速の感覚がほとんどないうえ,あっという間に目的の階に到着するという優れものだった。
開業から20年以上がたつが,客室は至極きれいだった。