今年で5回目となる「近自然ワークショップ&セミナーinしむかっぷ」が,9月29日〜30日,占冠村で開催された。1回目から毎回参加しているが(2009年は小さな旅行記鵡川源流を訪ねて,2010年は小さな旅行記鵡川を下って,2011年は小さな旅行記鵡川の水を巡る旅参照),いつも新しい考えなどを学ぶことができ大変勉強になっているため,今年も参加してみることにした。
今回のテーマは「森と生きる」である。占冠村では今年役場に林業振興室が新設され,村としても本格的に林業の課題に取り組み始めたようである。かつて林業で栄えた村とはいえ,いまやほとんどゼロからの出発で,村はどんなことをやろうとしているのか,また,セミナーに参加する人たちが森に対してどんな考えを持っているのか,2日間のセミナーの中で感じ取ることができたらと思う。
旭川駅7時42分発の帯広行き快速狩勝に乗車し,根室本線金山駅で下車。ここからバスに乗り換えるという,正統派のルートで占冠入りすることにする。占冠に朝集合だとか上トマム集合だとアクロバットな方法を使わなければならないが,今年は占冠に昼集合なのでありがたい。
金山駅でバスへの待ち合わせが20分ちょっとある。学生のとき以来,何度となくこの時間を過ごしたが,明治のレンガ造倉庫は年を経るごとにありがたみを増すように感じる。金山市街もだんだんとひと気がなくなっていくが,駅構内にはまめに手入れがされている花壇があった。
10時11分,上双珠別行きの村営バスに乗車。乗客はほかにいなかった。
バスは国道を外れて湯の沢温泉に乗り入れる。湯の沢温泉は4月から始まったリニューアル工事が終わり,今日がグランドオープンである。外観は意外な色に改修されていた。
昨年村を通過する高速道路が全通したものの,富良野方面とのアクセスで占冠ICを利用するケースが意外と多いようで,道の駅はかなりの賑わいを見せていた。
13時からのセミナーまでしばらく時間があったので,図書室で本などを読んで過ごした。
その中に,昨年行われたアンケートの調査結果があった。実施したのは北海学園大学経済学部とあった。アンケートには地域の行事やボランティア活動について認知度と参加度を尋ねる質問があり,鬼峠フォーラムについても調べていた。
こちらが双珠別地域住民のアンケート結果。回答数25のうち,鬼峠フォーラムを「知っている」が2人,「参加した」が1人。別に驚きはしないが,双珠別の廃校になった小学校を会場として使わせてもらっているわけだし,もう少し地域の人たちにも知っていてほしいと思った。それでも,地域への愛着を問う質問では,25人中24人が愛着を感じていると答えており,役場職員やトマム地区住民を対象としたアンケート結果との差は歴然としていた。
こちらはトマム地区のアンケート結果。回答数74のうち,鬼峠フォーラムを「知っている」が10人,「参加した」が1人。ただ,実際はトマム地区から延べ10名以上のフォーラム参加者がいるはずである。
アンケートはいわゆる「地元の人」に対象を限定して行われたらしい。これをもって村を語ることは危険である。この結果は占冠の一面ではあるが,鬼峠フォーラムや近自然ワークショップもまた占冠のたしかな一面であり,小さな村とて多面的にとらえなければ村の実像は見えてこないはずである。どうもこの種の調査には,対象を既成の概念に押し込めたいという意図が感じられるが,多面的に見れば恐らくどの集落にも個性があり,過疎地と聞いて思い浮かべるような典型的な集落は,意外と幻想に過ぎないのではないかという気がする。
12時半,早めに受付をしてもらって会場に入った。会場となる占冠村コミュニティプラザの多目的ホールの後ろには,セミナーの資料や情報提供パンフがずらりと並んでいた。
13時ちょうど,主催である「しむかっぷふるさとふっつくふくらむ協議会」の山本会長の挨拶によりセミナーが始まった。
今回は少人数でじっくりという趣旨だと聞いていたが,結局60名もの申し込みがあったそうで,この最初のセミナーにも30名以上が参加していた。
まずは<森を知る>というテーマで,占冠村林業振興室長の田畑泰行さんからお話があった。プログラムには「占冠の鵡川流域の森林の『基本』について学ぶ 国有林・村有林・民有林・天然林・経済林・造材・植林」とあった。
田畑室長は長らく道職員として山づくりに携われてきた方で,この4月の占冠村林業振興室発足に伴い村に招聘され,室長として着任されている。
田畑室長がまずこれを見てもらいたいといって張り出したのが,この地図である。緑色に着色された部分は全部国有林である。占冠に道有林はなく,村有林,私有林は道路にへばりつくように存在しているに過ぎない。
北海道水産林務部「平成22年度 北海道林業統計」(平成23年12月)より
占冠村は森林面積でいうと道内179市町村の中で34位,市町村の面積に占める森林の割合は92.2%で道内6位と,首位ではない。占冠村が1位となるのは,人口1人当たりの森林面積である。上のグラフは私の興味により作成したものだが,人口1人当たりの森林面積が大きい順に道内の市町村を10位まで並べてある。占冠村は45.4ha/人と圧倒的に大きい。全道平均は1.0ha/人である。
一方,グラフを見ると,占冠村は森林面積に占める国有林の比率が,90.3%とこれまた突出して高いことがわかる。つまり,村には森があるといっても,ほとんどは国の持ち物なのであり,これまでも村は国の林業施策に翻弄されてきたといえる。
しかしながら,大部分が国有林であるとはいえ,村の人口1人当たりの村有林面積は1.7ha/人で,実は全道2位である。そこで,村の林業振興室としては,まずは村有林から始めようということで,一般民有林の模範となるべく森づくりに取り組み始めているようである。
北海道水産林務部「平成22年度 北海道林業統計」(平成23年12月)よりり
村内に手つかずの原生林は皆無だと思われるが,伐採が行われたあと,天然更新によって自然の姿に還りつつある森が「天然林」として森林面積の約4分の3ほど存在している。このような森は,生物多様性が高く,水源涵養にも大きな役割を担っている。最近,鵡川にサケやサクラマスなど回遊魚が戻ってきているのは,天然林が復活してきた証拠だろう。
一方,伐採後に植林が行われた人工林が残りの約4分の1を占めている。この人工林は自然に還すにせよ,再び伐採して木材を活用するにせよ,いったん人間が木を植えた以上,しばらくの間はきちんと管理をしていかなければ山が荒れてしまう。我々は自然から頂戴をしなければ生きていけないので,この人工林については,きちんと管理をしながら持続的に木材を利用していくというのが今後の方向だろう。
問題は人工林の活用がされていないということである。
林野庁「森林資源の現況」(平成19年3月31日現在)より
グラフは北海道の人工林の齢級別面積を示している。セミナーでは占冠版のグラフが示されていたが,占冠でも同様の傾向となっている。なお民有林には,道有林,市町村有林,私有林等を含んでいる。齢級とは林齢を5年ごとにくくって表現したもので,例えば8齢級とは36〜40年生をいう。北海道の人工林の主力樹種であるトドマツは50年程度,カラマツは30〜35年程度で伐期を迎えるとされるが,伐期に達した森林が大量にあることがわかる。これらの森林がきちんと利用され,跡に植林されればよいのだが,現状では十分な利用がされていない。一方,木は老齢になると腐れが生じ,木材としての利用価値がなくなる。結果として,若い木が育っておらず,このままいけば数十年後には利用できる木がほとんどなくなることになる。特に国有林は壊滅的である。
それで,何とかいまある木を使って,跡に新しい木を植えていこうという動きが,この数年で盛んになってきたわけだが,占冠村でも少しずつだが地道に造材と植林を行っているとのことである。2010年度の素材生産量は村全体で20,000m3で,うち国有林は半分に満たないというから村はかなり頑張っている。そして切った跡には,アカエゾマツを植えているという。国有林はトドマツ,一般民有林はカラマツが選択されることが多いが,アカエゾマツというのは比較的珍しい。たしかに,初代の鬼峠は前半村有林の中を通るが,アカエゾマツの植林帯を各所で見ることができる。また,一般民有林の模範となるべく,これからは針葉樹だけでなく,生物多様性の向上のため村木であるイタヤカエデなど広葉樹の植林も計画されているとのことだった。
講演のあとの質疑応答では,参加者から意外と厳しい質問が出ていた。田畑室長はそれらの質問にも丁寧に回答されていたが,中には村の担当者に聞くのはどうかと思われる内容の質問もあった。森林は農業と違い,自ら森をどうかするということが難しいので,どうしても行政に対する注文が厳しくなってしまうのかもしれない。